皇居や陸上競技場などで市民ランナーを指導するインストラクターの姿を多く見かけるようになりました。陸上に詳しい人なら知っているような元有名選手が指導しているケースもあれば、ランニングチームの一員がコーチとして指導しているケースもあるようです。
ランニングの指導と言っても、ランニング未経験の方には想像がつきにくいかもしれませんが、基本的には以下の3つに分類できると思います。

 

(1)動きづくり(フォームづくり)
(2)実走 (走力アップのために走る)
(3)補強 (わかりやすく言うと筋トレ)

 

このうち、最近は特に(1)の動きづくりを重視している光景をよく見ます。
ランニング初心者とマラソンで3時間を切るようなランナーはフォームが全く違います。そこで、より楽により速く走れるフォームを初心者のうちからマスターしてしまおうということです。
この前陸上競技場で指導をしていた某チームはラダーやミニハードルといった本格的な用具まで取り入れて動きづくりをやっていました。ただ、そのあと実際に走っているのを見てみると、動きづくりがどれだけ役立ったかは定かではないケースが多いというのが個人的な感想です。これは、初心者であるが故に、走ることに精いっぱいでフォームのことまで頭が回っていないのだと思います。インストラクターが声をかけるとそのあと少しの間は改善されるということの繰り返しです。

 

では、動きづくりが意味がないかというと、そうは思いません。私の周囲では動きづくりでフォームが改善されて劇的にタイムが伸びたというケースをいくつも見てきたからです。
私の高校の陸上部顧問は現役時代にアジア選手権優勝という実績を持ち、大学でも陸上の研究をしていた理論派の先生でした。いざ入部してみると走る量は決して多くなく、動きづくりと補強の時間が長いという練習スタイルでしたが、入部2か月後の初めての大会では短距離陣の多くが大幅に自己ベストを更新していたのです。一方で、練習量が少ない影響なのか、長距離陣は振るわず自己ベストを更新する選手もいませんでした。
さらに面白いことに、中学時代に都大会出場とか、区の大会で優勝しているといった実績のある選手の方が大幅に記録を伸ばしていたことです。高校から本格的に陸上を始めたタイプの選手の方が伸びしろは大きそうな気がするのですが、逆の結果でした。

 

これは私の仮説ですが、ある程度身体ができているからこそ動きづくりの効果が大きくなったのではないかと思います。また、中学時代に陸上の経験がある程度あるので、身体の感覚もそれなりに研ぎ澄まされていて、フォームを意識するということが可能だったのかもしれません。
かくいう私は、動きづくりの意味がよくわからず漫然と言われたことだけを適当に見た目だけ真似してやっていたため、高校時代はほとんど記録が伸びませんでした。

 

初心者にも必要だけど、中級者以上の方が実は効果が高い。
これは、研修も同じではないかと思うのです。

先ほどの3つの分類を仕事に置き換えてみると、(2)実走が仕事での実務にあたります。研修は(1)と(3)にあたるでしょう。
ランニングで考えれば(1)と(3)ばかりやっていても当然速くはならないわけで、むしろ(1)や(3)を無視して(2)ばかりやっていた方が速くなるというケースもあるはずです。ここで走るのが速くなるのを仕事ができるようになると置き換れば、研修ばかりやっていても仕事ができるようにならず、研修なんてしなくても実践の中で能力は鍛えられるという考えになるわけです。
でも、ちょっと待ってください。より効率的に能力を向上させ、突然の挫折を防いだり、挫折の克服を早くしたりするためには動きづくりや補強をも必要ではないでしょうか。

 

一般的に研修というと新入社員研修や昇格者研修などのように、新しい役割についたタイミングで実施されることが多いと思います。しかし、先ほどの陸上競技の例にもあるように中級者に実施するからこそ実務への落とし込み方がわかったり、実務を行うにあたって心の余裕があるから研修で学んだ新しいことを活用できたりというケースもあるのではないでしょうか。
「研修だけでは能力は伸びない!」という人がいますが、ある意味当たり前です。「フォームづくりと補強だけではフルマラソンは走れない!」と言っているのと同じなのですから。単体では目的に直結しないからと言って、それが無駄なことと言い切れるのでしょうか。私はそうは思いません。実務での学びをより深め、より学びのスピードを上げるためにも中級者(仕事でいえば中堅社員)にこそ研修で新たに学ぶことは重要だと思うのです。