カイラボでは、日々多くの企業での研修を行っています。講師は代表の井上が務めることも多いですが、パートナー講師にお願いしていることもたくさんあります。

たくさんの企業研修を見てきた、私たちカイラボ編集部の視点から、初めて研修講師をやる人が事前準備の際にぜひ押さえてほしいポイントをお伝えします!

ちなみに、ここで言う「研修講師」とは、外部でプロとして登壇される方もいれば、社内で新入社員や若手社員に対して研修をおこなう「社内講師」も含みます。

今回の前編では「事前準備の仕方」「話し方のポイント」に絞ってお伝えします。

後編では「進行の仕方」「資料作成の注意点」をお伝えしますので、お楽しみに。

なお、この記事の内容は、カイラボのYoutube動画でも解説しています。

はじめて研修講師をやる人が絶対押さえるべきポイント 事前準備編 

はじめて研修講師をやる人が絶対押さえるべきポイント 話の伝え方編 

研修とは「編集」と「翻訳」である

私たちカイラボは研修は単なる知識の伝達ではなく、「編集」「翻訳」を通じて受講者が知識を活用できる状態をつくることだと考えています。

単に知識を教えるのではなく、目的に合わせて情報を「編集」し、受講者が理解、納得できるように「翻訳」することが研修だととらえています。

そして、研修を通じて得た知識やスキルを実務で活用できるようにすることが研修の目的の一つです。

例えば商品知識であれば、商品カタログの内容を伝えるだけではなく、受講者が担当顧客にどう説明するのか、イメージできるようにするのが研修のゴールです。

編集・翻訳がうまくいかないと、知識の一方的な押し付けや、読めばわかる内容の繰り返しとなってしまい「研修は意味がない」と言われてしまうのです。

研修の事前準備 4つのポイント

1. 受講者の理解度を知る

まず大切なのは、受講者の理解度を事前に把握することです。人事との打ち合わせやアンケートの実施、過去の研修記録や入社時のデータなどが参考になります。

新入社員の場合など、事前アンケートが難しい場合でも、研修冒頭に簡単なクイズを出すなどして理解度や知識を把握することは可能です。

事前に受講者の理解度がわからない場合には、基本的には「知らない前提」で準備を進めることが無難です。

2. 理解度に合わせて例え話や表現を変える

受講者の理解度が把握できたら、受講者の状況に合わせて例え話や表現を調整しましょう。

特に若手や新入社員には、学生時代の経験などに例えることで腹落ち感が生まれやすくなります。

また、技術的な内容で難易度が高い場合でも、例えば高校数学ではなく中学数学で説明してみるとか、小学校の算数レベルで表現できないか工夫してみましょう。

人は、難しい言葉が出てきて理解できないと、そこで思考が止まってしまいます。だからこそ、「理解できる言葉で説明する」ことが重要なのです。

3. 説明や資料は「正確さよりも、わかりやすさ」重視が基本

初心者に教える場合、正確さよりもまずは「わかりやすさ」を優先しましょう。

伝え方は「原則→例外」の順番が基本です。

例えば学校の英語の授業を思い出してみてください。最初は原則として「to のあとは原型」とか「三人称単数は最後にsがつく」などのルールを学びます。それが段々難しくなると、例外パターンが出てきます。

最初から全ての全部伝えようとすると、受講者は混乱します。まずは3パターンだけ教えて7割カバー。その後で「実はこんな例外もある」と補足していけば十分です。

4. 比較対象(=基準)をつくって説明する

定量的な数値を伝える際は、基準も一緒に伝えましょう。基準があれば比較ができます。比較ができると、数字の意味が理解しやすくなるからです。

例えば、「粗利益率50%」と言われても、新人にとっては粗利が良いのか悪いのかピンときません。そこで「全社平均の粗利が30%に対して、A商材は50%」と言われれば、A商材の粗利が高いことが理解できます。

一見すると当たり前のことのようですが、業界経験が長い方ほど、業界の常識や自社の常識を他の人も知っていると思い込んでしまうため、意図的に比較対象となる基準をつくるのが大切です。

一番大事なのは、伝えるのではなく「伝わる」ことを

研修において大切なのは、「講師である自分が伝えられたか」ではなく「相手に伝わったかどうか」です。受講者に伝わらず、受講者の行動が変わらない研修には意味がありません。

人間は1度聞いただけでは覚えません。
だからこそ、繰り返し伝える、かみ砕いて伝える、実務に結びつけて伝えるという工夫が必要です。

初めて講師を務める方の中には「伝えることで精一杯」になってしまう方も少なくありません。「伝えることは目的ではなく手段である」ということを念頭に置きましょう。

「話し方」で伝わり方が決まる

研修の資料ができて、時間配分が完了して、ここまででやっと準備が完了です。

実際の研修はここからが本番です。
研修における講師の「話し方」も研修の成否を決める大きな要素です。

突然ですが質問です。
みなさんは「ビジネス上のコミュニケーションにおいて最も重視するもの」はなんだと思いますか?
選択肢は以下の3つです。

  1. 何を言うか
  2. 誰が言うか
  3. どう言うか

どれを重視するかは、人によって意見が分かれると思います。
何を言うかでしょ」と考える方もいれば、「いや、やっぱり誰が言うかが大事でしょ」
でも実際は“どう言うか”で伝わり方が全然変わるんじゃない?」という方もいらっしゃいます。

企業研修でこの質問をすると、本当に回答はさまざまです。
1と3に答えが集中する会社もあれば、2が圧倒的に多い会社もありました。ある企業では、8割の方が3番「どう言うか」を選んだこともあります。

ただ、結論としては「全部大事」です。どれか一つではなく、3つすべてに意識を向ける必要があります。

3つの視点  何を言うか・誰が言うか・どう言うか

何を言うか」は、内容そのものですね。
専門知識やエビデンス、テーマ設定、研修タイトルなどがこれに含まれます。

誰が言うか」は、話す人の信頼性や人柄、経歴などです。
例えば、起業経験のない人が起業論を語っても、「あんたやったことないでしょ?」と言われたらおわりですよね。

また、社内講師の場合は、日頃の業務態度や服装、普段の発言内容が影響することもあります。
研修で「挨拶は大事」と言っている講師が、新入社員の挨拶を無視していたら説得力がありませんよね。

どう言うか」には、言葉遣いや声のトーン、話す間、佇まいなどが含まれます。
プレゼンの世界ではこの部分が重視されがちですが、これだけでなく、内容と話し手の信頼性も同じくらい大事なのです。

 情報の質 × 体験の質 = 研修の成果

さらに、研修の「質」を決める2つの要素としてカイラボが重視しているのが、「情報の質」と「体験の質」です。

「情報の質」は、伝える内容がどれだけ正確で、有益で、理解しやすいか。
「体験の質」は、研修の場そのものが楽しく、面白いと感じられるかです。

一方的に講義するだけでは、情報は伝わっても印象に残らないことがあります。 楽しくない場は、記憶にも残りませんし、アンケートの評価も下がります。

一方で、体験の質だけに偏ると「楽しかったけど何の話だった?」となりがちです。

なので、情報の質と体験の質の両方を高めることが大切なんです。

 笑いやユーモアの効果

体験の質を高める方法のひとつとして、カイラボでは「笑い」や「ユーモア」をよく使っています。

スタンフォード大学の研究では、ユーモアがある人は知的に見え、交渉が有利に運び、記憶にも残りやすいと言われています。

 笑いの3大理論

1. 優越理論

他人の失敗や間違いを見ることで、「自分は大丈夫」と感じて笑う。
ただし、現代のビジネスシーンではコンプライアンスの観点から慎重に扱う必要があります

2. 不一致理論

期待や予想と現実がズレていると笑いが生じます。
たとえば、真面目な俳優がNGを出して戸惑っている姿など、意外な一面に笑ってしまうのがこの理論です。

3. 解放理論

緊張が緩んだときに起きる笑いです。
例えば、研修の最中にぬいぐるみが突然出てくるなど、場の空気が和らぐ瞬間がこれにあたります。

研修でユーモアを取り入れる工夫

例えばロールプレイで、ぬいぐるみを使って登場人物を演じる。
または例題にビジネスに関係のない恋愛や漫画の話を取り入れてみる。こうした小さな「ズレ」や「意外性」が、受講者の集中力を高め、印象にも残ります。

前半のまとめ:「伝わる」研修を意識する

  • 受講者の理解度を把握し、それに応じた設計をする
  • ゴールは「伝えること」ではなく「伝わること」
  • 「何を言うか」「誰が言うか」「どう言うか」の3要素はすべて重要
  • 研修の質は「情報の質」「体験の質」の掛け算
  • ユーモアや笑いは体験の質を高め、結果的に記憶にも残る

この内容が、皆さんが「何のために研修をするのか」という目的を忘れず、よりよい準備のヒントになれば幸いです。

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