早期離職対策に関係する専門家へのインタビュー。
企業向けに顧客や社員のロイヤルティ向上の支援などを行う株式会社エモーションテック 代表取締役の今西 良光さんにお話を聞きました。今西さんが代表を務めるエモーションテックではeNPS℠と呼ばれる指標を用いた従業員体験(EX)向上のための支援を行い、クラウドサービスやコンサルティングサービスを提供しています。

社員のロイヤルティを測定する指標として注目されるeNPS℠は、離職率とも関係していると言われています。

今回のインタビューではeNPS℠を中心に離職率との関係性などについて、早期離職.comを運営する株式会社カイラボ代表取締役の井上が聞きました。

インタビュー

1.社員のロイヤリティを測る指標「eNPS℠」とは?

カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
今西さん、本日はよろしくお願いします!
さっそくですが、eNPS℠について教えてください。
eNPS℠というのは、「Employee Net Promoter Score」の略です。
これは、従業員が職場の環境や会社そのものに対してどのくらいロイヤルティを持っているのかを定量化した指標です。
eNPS℠の「e」は「Employee:従業員」の頭文字を取ったもので、これにお客様が自社の商品やサービス、ブランドに対してどのくらいロイヤルティがあるのかを定量化した指標であるネットプロモータースコア(NPS®)を付けたものです。
NPS®は企業の収益と相関性が高いため、世界各国の大企業が経営の重要な指標として活用しています。
そして、世界で初めてNPS®を従業員向けに転用したのがAppleです。
この動きが北米企業を中心に少しずつ広がり、企業の収益や離職率、生産性のような指標にどのようにリンクしているのか実証が進みました。
その結果、企業収益にとてもリンクしているらしい、ということがわかったんです。
今西さん
今西さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
ありがとうございます。
ちなみに、eNPS℠はどのように算出するのでしょうか?
計算方法は、NPS®の算出方法と同じです。まず「親しい友人や家族に、自社で働くことを勧める可能性はどのくらいありますか?」と従業員に質問し、0〜10点までの点数をつけてもらいます。そして、9~10点をつけた人たち(推奨者)の割合から、0~6点をつけた人たち(批判者)の割合を引き算した数値がeNPS℠です。
例えば、職場に従業員が100人いる場合、20人が9~10点、70人が0~6点をつけたとします。すると、9~10点は20%、0~6点が70%なので計算式は「20%-70%=-50%」。つまり、eNPS℠は-50ポイントとなります。
今西さん
今西さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
その計算方法だと、スコアがプラスになるのは結構厳しそうな感じがしますね…
そうなんです。質問への回答が10段階のうち5~6点だと、eNPS℠がマイナスになるので、大概マイナス側になってしまいます。
本当に職場環境が良いと言われる代表的な企業でさえも、プラスのスコアになることは難しいと言われています。+20ポイントを超える企業は、かなり優秀なエクセレントカンパニーと言えると思います。
今西さん
今西さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
なるほど。マイナスのスコアが多い指標は珍しい気がしますね。
確かにeNPS℠はマイナスに出ることが多いので、使いづらいという意見もありますね。
ですが、eNPS℠は経年でどのくらい変化したのかを確認していくことが大事です。
スコアそのものではなく、従業員体験(要因)を見ていくことが重要です。その上で点数をきちんと紐付けていくと、スコアが上がっていけば、離職率は下がるし収益性は上がる、という流れを確認できる指標となります。
今西さん
今西さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
従業員体験というのは、具体的にどのようなことを指すのでしょうか?
職場の業務内容や福利厚生、同僚とのコミュニケーションなど、従業員が職場で知覚したり、仕事をする上で体感したりする項目です。これを「従業員体験(EX:Employee Experience)」と言っています。
今西さん
今西さん

2.eNPS℠とES(従業員満足度)との違い

カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
ありがとうございます。
ところで、eNPS℠と似たような言葉として、ES(従業員満足度)がありますが、ESとeNPS℠は何が違うのでしょうか?
ES(従業員満足度)は、従業員の総合的な満足度を何かしら定量的な尺度で計測し、数値化したものの総称です。一方eNPS℠は、算出方法がグローバルで一意に決まっている指標です。
ESという言葉を「従業員が組織に感じる満足度を定量化した指標」であると定義すれば、どちらも指標ですが、ESを定量的に計測する指標は画一的なものがないため、会社によって5段階で評価する形もあれば、7段階で評価する会社もありバラバラです。
今西さん
今西さん
その点、eNPS℠は0~10点の推奨度から算出するという明確な違いがあります。また、そのフォーマットは、企業の離職率や収益に定量的な相関が担保されている点がeNPS℠の特徴であり、ESとの違いです。
今西さん
今西さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
ES調査の場合、会社や請け負う調査会社によって調査方法が変わることもありますが、eNPS℠はその心配はないということですね。
となると、いわゆるES調査として、eNPS℠を使っている会社も中にはあるんでしょうか?従業員満足度調査と言って実証していても、中身はeNPS℠を使っているみたいな。
おっしゃる通りです。最近では活用している会社が結構多いと思います。
今西さん
今西さん

3.eNPS℠と離職率の関係

カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
先ほどの話でeNPS℠と離職率に関係性があるとのことでしたが、具体的な事例などがあれば教えていただけますか?
毎年一度、店舗に在籍している従業員のeNPS℠を計測し、変化を見ている小売企業では、「各点数を付けた人たちの群」と「その人たちが1年後にどれだけ残っているか」の相関関係を見てみたところ、0〜1点をつけた人たちの大半が離職しているという事実がわかりました。
一方で、点数が上がれば上がるほど、その群の人たちの離職率が明らかに低いという顕著な傾向が出たんです。
今西さん
今西さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
eNPS℠と離職率との間に明らかな相関関係があったんですね。興味深いです。
離職率との相関ではなくて、収益との相関についても気になるところだと思うのですが、eNPS℠と収益との関係性を見ている会社もあるのでしょうか?
はい、あります。
収益まで見ている会社は、収益を上げるためにはお客様が求めていることを把握し、それを実行していくために社員のロイヤルティを上げていく必要がある、という紐づけ方をしています。
従業員のこのEXを1ポイント上げることでサービスクオリティが〇ポイント上がる。その結果としてお客様の満足度が〇ポイント上がった。だから結果収益が〇円上がる。というロジックです。だから「従業員体験の改善に企業として投資しましょう」ということですね。
今西さん
今西さん

4.EX(従業員体験)の向上がカギ

カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
私自身がまだあまり理解できていない部分があるので、eNPS℠とEXの関係性について教えていただけますでしょうか?
例えばEXは職場の業務内容やコミュニケーションなど、各項目についてeNPS℠で測定している感じなんでしょうか?
そうですね。そういうやり方もあります。
ただ、eNPS℠はあくまで最終的な重要指標なので、このeNPS℠に対して作用している体験が何なのか?を紐解いていくことが多いですね。
今西さん
今西さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
そうすると、仮にEX1〜4までの項目があったとしたら、どの項目がeNPS℠に連動しているのかは、会社によっても変わってくるってことですよね。
会社や業種、業務のやり方、社風などによって、ある会社はコミュニケーション、ある会社は別のEX、みたいな感じで変わるという認識で合っていますか?
はい。その通りです。
今西さん
今西さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
ありがとうございます。なんとなくわかってきました!
eNPS℠についてもう少し教えてください。eNPS℠の質問項目はフォーマットがあるとのことでしたが、質問項目は全部でどのくらいあるんでしょうか?
冒頭でもお伝えした通り、eNPS℠を算出したいだけなら、「親しい友人や家族に、自社で働くことを勧める可能性はどのくらいありますか?」の1問だけで算出することができます。
ただ、これだけだとそれらの向上に繋がる打ち手が見えてこないですよね。
今西さん
今西さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
確かに、質問が1問だけで平均何点でした!と言われても…って感じですよね。
そのため弊社では、誰もがEX調査に着手できるように、標準的な調査票をテンプレートとして提供しています。企業における標準的な従業員体験(EX)は10~15項目ですが、会社によっては20〜30項目になるケースもあります。
まずは、先ほどの1問で定量的な推奨度(0~10点)をとる。続いて、推奨度に対して、各体験がポジティブ、ネガティブ、あるいはどちらでもないのか、どのように影響しましたか?という形で調査を行います。
今西さん
今西さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
なるほど。eNPS℠自体は究極1問で決まりますが、改善するためにはEXとの関係を紐解く必要があり、EXの項目はお客様に応じてカスタマイズしていく必要があるんですね。
そうですね。eNPS℠は確かに1つの目安にはなるのですが、調査するからには、それらの根拠の分析までしたいですよね。
今西さん
今西さん

5.eNPS℠を活用した離職率改善

カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
ありがとうございます。
続いて、eNPS℠を離職率の改善にどう繋げていくか?について教えてください。当然会社によってやるべき施策が変わると思うので、こうすればいいという話ではないとは思いますが…。
特に上司と部下、同僚とのコミュニケーションです。人間が持つ悩みは、人間関係の悩みが多いため、そこが強く出てくるのはどの会社でも同じです。
そのほかには、EXの点数をつけるにあたって「福利厚生や給与面が重要だ」と言う会社が多い印象です。ですが、福利厚生や給与について質問しても、それらが良くなるに越したことはないので、eNPS℠が高い人も低い人も、普通の人もほとんどが重要だと答えるんですね。
今西さん
今西さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
確かに給料は高いに越したことはないですが、それが辞める理由に直結するかと言えば、そうとも言えないですよね。
そうなんです。
なので、すごく割り切った言い方をすれば、企業としてeNPS℠を上げていくことが収益の向上や離職率の低下に繋がるのであれば、eNPS℠を直接上げていくことに対して、みんなが一律で重要だと答えることはあまり聞く必要はないんです。
そのため、全体平均で見るのではなく、eNPS℠が高ければ高い人ほどよく言及される体験は何なのか、eNPS℠が低ければ低い人ほどよく言及される体験は何なのか、という見方が大切です。
今西さん
今西さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
なるほど!全体平均で見ると効果が薄まっちゃうっていうことですかね?
そうですね。どの体験が、本当にロイヤルティの向上に関係する体験なのかは、その詳細分析をしてみなければわからないということです。
ロイヤルティの低い人の言及率が上がっていく体験を見るべきなんです。これが本当の課題であり、このゾーンに現れがちなのが先ほどのコミュニケーションの部分です。
コミュニケーションに満足していれば、ロイヤルティが高まっていくし、不満を持つとロイヤルティ、eNPS℠の点数定数が低くなってしまう、というイメージがありますね。
今西さん
今西さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
離職率はeNPS℠と相関があって、さらにコミュニケーションに対する体験がeNPS℠に直結してくる傾向が強い、ということですね。
はい。その通りです。
業種・業態別でいうと、規模感が小さいベンチャー企業であれば、仕事のやりがいや理念浸透などの項目は影響力が大きくなる傾向が強いです。もともと、そういうものを求めてきていることが関係していると考えられます。
また、大企業で比較的安定的に事業運営している会社であれば、余暇と働き方のバランスが重視されるケースが多いですね。
今西さん
今西さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
働いている社員の方々が、そういう嗜好性で集まってきている可能性もありそうですよね。
そうですね。その通りです。
なので、そういう人たちが求めるものが提供できていればやっぱりロイヤルティは上がるし、提供できていなければ離職率が上がるリスクはありますね。
今西さん
今西さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
当然業種や職種、規模感によって違いますが、コミュニケーションの話はやっぱりどこでも出てきますよね。
ちなみに、コミュニケーションのポイントを上げたい場合はどんなアプローチがあり得るんでしょうか?上司とのコミュニケーションを改善していくのって簡単ではない気がしますが。
まず、コミュニケーションと一言で言っても、それが「頻度」なのか「質」なのかを判断する必要があります。
例えば上司と部下とのコミュニケーションの「頻度」が課題になっているケースでは、1on1を制度化し、しっかり継続していくことが重要です。
人事が制度に落としてフォローアップしていくということを打ち手としたことで従業員が声を上げやすくなった結果、約1年後に5~6ポイントeNPS℠が向上したという企業がありました。
今西さん
今西さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
すごい改善ですね!
eNPS℠を上げるために要因分析して、原因がコミュニケーション頻度の少なさだとわかれば、1on1が雑談になっていてもOKってことですよね。頻度の確保が目的ですから。
ずっと雑談は良くないですが、まずはそれでOKとなれば、会社としてもやりやすいですね。これ、すごくいいなと思いました!
まさにそうですね。目的に合わせて、質まで追いかけないといけないのか、まずはその場が持たれることが重要なのかが判断できるのは大きいです。
今西さん
今西さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
1on1をやってもうまくいかないという話もよく聞くんですが、雑談になっても導入理由がコミュニケーション頻度の確保であれば、「今日は雑談だったね、じゃあ頑張って!」で終わるのもありですね。
そうですね。目的がきちんと把握できるので、そういった判断ができます。
1on1の回数を増やし、コミュニケーション頻度に対する従業員の評価がどのように変化するのか経年で追っていくといいですね。スコアが上がっていけば、細かい点は置いておいても、今の施策が間違っていなかったことの確認にも使えます。
今西さん
今西さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
人事が新しい施策を行ってもだいたい反発されるので、課題はあっても方向性として間違ってないことを確認できるって大事だと思います。
反発しがちな現場の管理職に「あなたの部署のスコアが…」という風に、説明できるのも良いですね。
本当にそうですよね。社員と向き合って合意をとったり、施策の正しさを証明したりすることはすごく難しいですから…。
今西さん
今西さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
ありがとうございます!
私自身、eNPS℠は当然概念としてなんとなく知っていたんですが、今回お話を聞けて改めて非常に勉強になりました。

株式会社エモーションテックのご紹介

カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
最後に、エモーションテックの事業内容についてご紹介お願いします!
エモーションテックは、ロイヤルティ指標であるNPS(eNPS℠)を活用し、それらを構成する各体験との関係性や要因をデジタルで把握することで、起業の最適な意思決定を後押しするサービスを提供しています。
今回中心的にお話した従業員体験向上を支援するサービスにおいては、従業員たちの声を起点に、より良い職場環境の実現を支援しています。実際のデータそのものを、納得感を持って人事や現場の方に共有し、次の建設的な手を打てる、施策に自信を持てる、といった部分が重要だと考えています。事業が向かう方向性が間違っていないことを証明する後押しとなることも、大切な役目だと考えています。
今西さん
今西さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
基本的には、eNPS℠の測定やEXとの紐づけ、質問作りのお手伝いをデジタルで把握・調査・分析できるツールを提供しているという感じでしょうか?
大きく分けると2つ提供しているものがあります。
1つ目はクラウドシステムの提供です。標準的な質問や設問の設計テンプレート、実際にアンケートをとれるアンケートシステム、そしてとったデータをさまざまな角度から分析できる分析ツールが一体となったシステムです。
今西さん
今西さん
2つ目はコンサルティングパッケージの提供です。システムを提供するだけでは、できることに限界があるので、企業様の活動に入り込み、コンサルティングや深い分析の支援を行っています。企業様がお持ちのデータをかけあわせての深い分析やEX改善を一緒に進めるなど、目的に合わせて伴走して支援します。
今西さん
今西さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
ありがとうございます。
最後にこれだけは伝えたい!ということがあれば、ぜひお願いします。
eNPS℠の良さは、スコア自体が離職率や企業の収益に相関していることはもちろん、従業員さんが生き生きと満足して働けているのか、という感情的な視点が定量的に捉えられることに可能性があると考えています。
感情というのは、定性的にしか捉えられないことが多いと思いますが、それだと何をしていけばいいのか、どのように寄り添っていけばいいのかと目線がずれてしまいがちです。eNPS℠という指標を持つことによって、企業と従業員の間でしっかり目線合わせができることに、この指標の真の価値があると思っています。
eNPS℠をとるだけなら簡単にトライできますので、興味があればぜひトライしていただければと思います!
今西さん
今西さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
ありがとうございます!eNPS℠1問だけなので取り組みやすいですよね。
本日はお忙しい中お時間いただき、ありがとうございました!

 

会社概要
社名:株式会社エモーションテック  ※旧株式会社wizpra
資本金:349,999,400円(資本準備金含む)
設立:2013年3月8日
所在地:東京都港区西新橋1-1-1 WeWork 日比谷FORT TOWER 11F
Webサイト:https://www.emotion-tech.co.jp/

インタビューに対応いただいた今西良光さんプロフィール

今西良光(いまにし よしみつ)

株式会社Emotion Tech代表取締役CEO。
新卒で日立製作所に入社しITシステムの営業に従事した後、ユニクロに入社。店舗のマネジメント業務の経験の中でサービスの現場におけるマネジメントの課題を痛感。課題解決の為、早稲田大学大学院に入学。在学中に海外のCX・EXに関する事例や論文を研究し2013年に株式会社wizpra(現Emotion Tech)を創業。CX・EXの分析に関する独自の手法を開発し特許を取得。
HRアワード2018プロフェッショナル組織変革・開発部門 最優秀賞、HRテクノロジー大賞2018労務・福利厚生部門 優秀賞、JapanVentureAwards 2020審査委員会特別賞 等を受賞。
著書『実践的CXM(カスタマー・エクスペリエンス・マネジメント)』(日経BP 2019年)