早期離職対策に関係する専門家へのインタビュー。

高卒新卒採用から中小企業の若手人材不足を解決する、株式会社セールスアドベンチャー 代表取締役の渡邉宏明さんにお話をうかがいました。株式会社セールスアドベンチャーでは、全国の中小企業に「高卒採用」の意義を伝え、その採用から定着・戦力化までのノウハウを提供しています。また、魅力ある中小企業の情報発信をお手伝いすることで、高校生の就職環境改善にも貢献しています。

今回は、企業から見た高卒採用と大卒採用の違いをはじめ、自社の魅力をうまく伝える方法、よくある失敗や改善策などについて、早期離職.comを運営する株式会社カイラボ代表取締役の井上がインタビューしました。

インタビュー

1. 企業から見た高卒採用と大卒採用の違い

カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
本日はよろしくお願いいたします!
渡邉さんが代表取締役を務めるセールスアドベンチャーでは、多くの高校生新卒採用の支援をされていると思います。まず、基本的な質問なのですが、高卒採用と大卒採用の大きな違いがあれば教えていただけますか?
企業から見た時の違いは、ハローワークを通して高卒求人票を必ず出さなければならないことです。これに付随して、学校斡旋で就職する生徒が全体の9割以上を占めるため、企業は必ず高校の進路指導室にPRし続ける必要があることも挙げられます。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
ありがとうございます。大卒の場合であれば、ハローワークにはない求人がほかの求人サイトに掲載されていることも多いと思うのですが、高卒の場合はルール的にダメということなのでしょうか?それは法律なのか、慣例なのでしょうか?
戦後からのルールではあるんですが、法律ではないんです。なので自治体ごとに若干事情も異なります。
今は18歳で成人ですが、以前は高校3年生の大半が未成年だったので、職業感や勤労感がない中で就職活動をしなければならない状況です。そこで学校がしっかりサポートする必要があるということでこのようなルールになったようです。
多くの高校生には就職先を自分の力で開拓する力もないので、採用したい企業はハローワーク指定の高卒求人票を出す必要がありますよとなったのでしょう。要するに、比較検討しやすくするという理屈だと思います。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
法律ではないので自治体でもルールが変わるんですね。ありがとうございます。
高卒採用の場合は、進路指導室に求人票が届き、それを見て就職先を決めるのが一般的なのですね。
そうですね。ただ、高卒求人票を含め情報が大量に届くので、求人票自体を直接生徒は見ていません。重要部分だけを先生方がまとめて高卒求人票一覧を作り、生徒はその中から受けたい会社を3つ程度に絞り込む。その後、高卒求人票を手にできるという流れですね。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
一覧表からいくつかピックアップし、いくつかの求人票を見られる感じですか?
そうですね。大半の高校はそのやり方で就職指導しているようです。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
なかなか知らない高校の実態をありがとうございます。
ところで、高卒採用は基本的には1人1社応募、内定をもらったら辞退できないという流れだったと思うのですが、最近の流れとしては変わりつつあるのでしょうか?
そうですね。もともと、沖縄県と秋田県は一次応募から複数応募可でしたが、これに加えて去年は和歌山県、今年から大阪府が加わりました。
とはいえ、同時応募が2社であるとか、同時応募する会社数に上限があるエリアが多いと思います。この流れで徐々に全国に解禁していくのだろうという気はしますね。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
そうなんですね。大阪は都道府県の中でも人口が多いので、高卒で就職する方も絶対数が多いイメージがありますが、そのようなエリアでも今は複数応募可になってきているのですね。
そうなんです。大阪が複数応募可にしたのは大きいと思います。
ただし、高校生の場合は職場見学に行けるのが夏休み期間中だけなので、大学生のように同時に何十社も受けることは現実的には難しいと思います。
複数応募可になったとはいえ、大学生の複数応募とはイメージが違いますね。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
確かに。高校生の場合は大学生のように3年生の後期までに単位を取り終えて、動ける時間をつくるわけにはいかないですもんね。
その通りです。もし、高校生が何十社も受けることになれば、進路の先生方はとても大変だと思います。企業とのやり取りも増えますし。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
やはり高校生の場合は、必ず先生が企業と生徒との間に入るものなんでしょうか?
学校斡旋のルールが基本で、9割以上の生徒が学校斡旋で就職するので、ほぼ先生が入ると言っても過言ではないですね。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
なるほど。ありがとうございます。

2. 高校新卒の定着率における課題

カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
高卒就職に関して学校側のサポートは手厚いですが、入社後の離職率について渡邉さんが感じていることや知っていることがあれば教えていただけますか?
以前は「七五三現象」つまり、3年以内離職率は中卒が7割、高卒が5割、そして大卒が3割と言われていましたが、いまは状況が変わり、大卒と高卒が拮抗し始めてきています。
2018年の3年以内離職率は、高卒が36.9%で大卒が31.9%と、約5ポイントの差しかありません。
この差の内訳を見ると、高卒の場合はとくに1年以内離職率が高く、3年目の離職に関しては、実は高卒と大卒が逆転しています。そのため、高校新卒の場合は、1年以内離職、つまり定着が課題なのかなと感じています。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
高卒の早期離職率が近年下がっていることは知っていましたが、「どこで差が開いているのかきているのか」には注目したことがありませんでした!
高卒の場合は最初の1年目が大きな壁なんですね。
はい。1年以内に辞める理由がポイントかなと思っています。私は高校新卒者の「魔の1年目」と呼んでいるのですが、とくに県外や遠方から就職した人は仕事だけが理由で離職しているわけではなさそうです。

離職理由をいくつか挙げると、

  • 一人暮らしをはじめて、自炊や洗濯などの家事もすべて自分でやる必要がある
  • 社会人デビューして仕事も覚える必要がある
  • 親元から離れてホームシックになる

など、こういった部分でストレスが溜まって離職にいたることもあります。これを正しく捉えられていない企業が多いのですが、実は職場外の問題が離職要因になっている可能性が高いので、ここをケアする必要があるのだと思います。

渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
たとえば、1人で地方から都市部に出てきた方であれば、友達がいないことも要因の1つになり得そうですね。
その通りです。企業はそういうところもサポートしてあげないといけないと思います。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
地方の学校の雰囲気からいきなり東京に出てくるとカルチャーショックは大きそうですよね。
そうですよね。ストレスのランキングがありますが、ストレス度の高い引っ越しに社会人デビューも重なり、とんでもないストレスの高さだと思うんです。
そのため、その1年目を過保護と思われるくらい、手厚くサポートすることがカギなのかなと思います。1年目を乗り越えると、大卒の離職率よりも低くなってきている状況なので。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
ところで、高卒採用は地元就職の傾向が強いイメージがあるのですが、就職のために東京や大阪、福岡などの都市部に出る人は割合的に多いものなのでしょうか?
地方になればなるほど多いのかなと思います。東北の場合は青森や秋田など、九州の場合は宮崎や鹿児島など、このあたりの方はとくに多い印象です。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
やはり地元で就職口が少ないという理由もあるのでしょうか?
それもあるとは思うのですが、もしかしたら「企業の魅力がきちんと伝わっていない」という可能性があります。
渡邉さん
渡邉さん

3. 企業の魅力を高校生にうまく伝える方法

カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
なるほど!高校生に魅力を伝えるために、企業が押さえておいた方がいいポイントがあれば教えていただけますか?
やはり仕事の面白さをしっかり伝える必要があると思います。高校生は大学生と違い、世の中にどんな職業があるのか知っている数が少ないんですね。そのため、弊社では職場見学ムービーの制作をおすすめしています。
高卒求人票や文字と画像だけの会社案内では良さは伝わりませんし、高校生の夏休みは短いので何社も職場見学に行くことはできません。そのため、本気で採用するつもりなら自社でのムービー制作がいいと思います。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
ムービー作成いいですね!
ちょっと変な意見ですが、採用支援をしていると企業の大学生向け仕事紹介ムービーを見ることもあります。正直、雰囲気がかっこいいだけで何が言いたいのかわからない動画も結構ありますよね(笑)
そうならないように、どんな風にムービーを作っていけばいいのか教えていただけますか?
とても良い質問をありがとうございます!
まさに言いたかったことを言われてしまいました(笑)
基本は高卒で入社した方がいれば、その方へのインタビュー形式です。
ただしインタビューは原稿を用意しません。会社から社員に話してほしいことを事前に聞いておき、インタビュアーがうまくその話しを引き出します。弊社の場合、絶対に話してほしいMust事項だけ決めておき、あとは当日のインタビューの自然な流れで進めるようにしています。
また、必ずではありませんが、できるだけ入れるように意識しているのは「仕事の厳しさ」です。
いいことばかり言っても胡散臭いムービーになってしまうので。入社して辞めようと思った瞬間や、どのような理由でそれを乗り越えてきたのかなどのエピソードを必ず入れるようにしています。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
インタビューで引き出した内容ををうまく編集して、1本の動画にしていくということですね。
そうです。
私たちのムービーでは編集してかっこいいものを作るというより、リアルを伝えることを大切にしています。
弊社のクライアントは中小企業なので、ムービー作成については「あまりかっこよく見せても実際入社した後にイメージとまったく違えば離職者が増えるだけです」と伝えています。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
リアルを伝えないと期待が膨らみすぎてしまうということですね。ありがとうございます。非常に参考になります!

4. 定着につながる高卒採用のコツ

カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
仕事紹介ムービーでリアルを伝えるのは、定着する人材を採用するためにとても重要だと思います。そのほかにも、採用数を増やすのではなく、自社で活躍してくれる人を採用するコツ、定着につなげるためのコツがあれば教えていただけますか?
定着につなげる採用のコツは、MustとWantを明確にした上で、PR物を作ることです。
シンプルなことですが、本当にそれだけですね。中小企業にも、シンプルにターゲット設定を行なう方法としてお伝えしています。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
たとえばですが、「コミュニケーション能力」はMustとWantのどちらだと思っている会社が多いのでしょうか?
高卒の場合はWantの場合が多いと思います。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
なるほど!それでは、Must項目はどういったものになるのでしょうか?
たとえば、高校時代に1つのことに打ち込んできた経験ですね。チームワークを発揮するタイプや個人プレータイプ、製造業の場合であれば、コツコツ真面目にできるかどうか。本当にそういったシンプルなところですね。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
コツコツ真面目にできることがMustの会社であれば、PRも派手な感じにするより「コツコツできる人が活躍しています」というメッセージにしていくということですよね。
そうです。そうです。なので、先ほどのムービー作成の場合であれば、実際の仕事の地味な作業をしている場面を入れていくなどの工夫がPRにつながります。。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
細かい作業を1人でやっている場面なども見せることで、コツコツタイプの人材には響きそうですね。

5. 高卒採用で失敗しがちなパターンと改善策

カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
続いて、高卒採用に力を入れていても採用できない、もしくはうまく定着しないなど、企業のよくある失敗パターンがあれば教えていただけると嬉しいです。
高卒採用プロジェクトを立ち上げて採用できたものの、社内の育成に対する目線合わせができていなくて辞めてしまうのは本当にあるあるです。
社内に育成担当の方がいても、現場の先輩やメンターがしっかりサポートできないという感じで、採用に力をいれても育てられないという状態です。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
頑張って採用したものの、入社後のことはあまり考えてなかったということですかね。
そうですね。そういうことがあると企業側も学んで、「やっぱり手厚いサポートが必要だよね」と理解して2~3年で定着体制も整ってくることが多いイメージです。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
ありがとうございます。
高卒採用に苦戦している会社の場合、先ほどご紹介いただいた動画を使ってうまくPRすることは、比較的取り組みやすい対策なのかもしれませんね。そのほかにも、対策があれば教えていただけますか?
なんだかんだで動画を作るのが一番いいのではないかなと思っておすすめしています。撮影動画があれば、それを紙面に展開したり、違う転換をしたりできるので。
また、見落としがちなのですが、高卒求人票のテコ入れが大事です!
やはり高卒求人票が一番の採用広報ツールですので。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
私が不勉強で申し訳ないのですが、高卒求人票の項目は、都道府県別に決まっているのでしょうか?フリーに書けるものなのでしょうか?
一部ローカルルールがありますが、フォーマットがあるのでほぼ全国統一ですね。自由に書けるフリースペースが表面と裏面に数か所あります。
たとえば、事業内容や会社の特徴、仕事内容などですね。そのフリースペースをいかに魅力的な言葉で埋めていくかがポイントかなと思っています。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
全国でほぼ統一されたフォーマットの中で、その数か所の差が採用に関係してくるということですね。
はい。職種名の表記方法一つでも変わってきますね。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
そうなんですね!たとえば製造業であれば、製造と工場勤務とかではなく、別の書き方をするということですか?
食品製造の仕事であれば、「お弁当の製造」ではなく「地元の安心安全食材を使ったお弁当の製造」と書くだけで、調理に興味のある方や材料にこだわりを持った食品作りに興味がある方がくると。普通科系よりも調理科系の方が興味を持ってくれると思います。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
なるほど。ちょっとしたキャッチコピー的なものも含めて、まずはどうやって見せるかが大切であり、そこがないと職場見学にも繋がらないということですね。
高卒採用に関しては私もあまり詳しくなかったのですが、高卒求人票でのキャッチコピーの使い方やターゲット設定を行なった上での動画作りなど、興味がある人をしっかり引きつけるという部分は大卒と一緒だなと感じました!
ただ、ほぼ未成年であることを理解して、地元や学校とのつながりを意識して行なう必要があると。また、大卒の定着率は2000年をピークにがくんと落ちているので、もしかしたら「高卒採用がいいかも」という流れが来るかもしれないですね。
本当にその通りです!
ただ、従業員規模で見ると100名未満の企業は3年以内離職率が高いのも事実です。それでも高卒全体で見ると下がってきているのは明らかです。また、数字を見て驚いたのですが、高卒よりも短大や専門の3年以内離職率の方が高いんですね。これも面白いデータだなと思います。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
私の知っている範囲だと、現在は高卒で就職する人は約7~8%、専門卒は約15〜20%、大卒は約52%くらいだったと思います。高卒で就職する人の方が「なんとなく専門学校」と進学を選ぶ人よりは覚悟があるのかもしれないですね。
そうです、そうです!「なんとなく」より、18歳で社会に出ると決めた方の方が育てがいもありますし、1年くらい経つと顔つきが変わってきますもんね。
渡邉さん
渡邉さん
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
私も最近は高卒新卒の新卒研修を行なうことが多いのですが、4月と10月の変化が大きいので面白いなと思っています。
本日は貴重なお時間いただき、ありがとうございました!

インタビューに対応いただいた渡邉宏明さんプロフィール

渡邉宏明(わたなべ ひろあき)

福岡県福岡市出身。2003年株式会社リクルート入社。タウンワーク福岡版営業メンバーとして配属後、営業責任者として大分版・社員福岡版を創刊。
その後かねてより関心のあった高校生の職業選択(就活実態)を知るべく 2012年に就職指導員として私立高校に入職。このときに高校生の就職活動期間が短期であることや、十分に企業を知ることがないまま親や先生の勧めで就職を決めるなど、高校生の職業選択の問題点や現状を目の当たりにし、 “企業と就職希望する高校生、双方に事業を通じて貢献したい” という思いを強くする。
2015年より企業の高卒採用広報に携わり、2018年株式会社セールスアドベンチャーを設立。新卒高校生の確保という角度から企業成長を支援しているが、就職を考える高校生の視点や保護者の目線で支援する企業を決定。フルパッケージの支援に関しては、一業種一社限定とすることにもこだわりをもっている。

会社概要
会社名:株式会社セールスアドベンチャー(18歳新卒人材ラボ)
設立:2018年3月
所在地:
【本部事務局】福岡県福岡市中央区大名2-3-3 ラピスラズリ
【首都圏サテライト】東京都港区浜松町1-21-4 港ビル 4F
Webサイト:https://sales-adventure.jp/