さまざまな離職対策に取り組む企業にお話を聞く企業インタビュー。
今回は東京都八王子市にある株式会社島田電機製作所の代表取締役社長、島田正孝さんにお話しをうかがいました。

島田電機製作所は東京都にある社員55名の会社。ビジョンには「 社員が働くことに誇りを持てる企業を創る」を掲げています。“オリジナリティあふれる仕組み仕掛け、自由度の高いオープンな職場環境、上下関係に縛られないフラットな組織風土により、従業員エンゲージメントを高めて “おり、メディア掲載実績は200以上にも及ぶ、今注目の企業です。今回は島田電機製作所さんに先駆的な働き方の秘訣をお聞きしました。

1.個性が発揮できない!自分の経験をもとに「社員が働くことに誇りを持てる企業」を目指す。

カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
「社員が働くことに誇りを持てる企業」 というコンセプトが素敵だなと思い、
今回、島田電機製作所さんに取材をお願い致しました。本日は宜しくお願い致します。
まずは「社員が働くことに誇りを持てる企業」を目指すことになったきっかけや背景をお伺いしてもよろしいですか?
ずばり、働くことに誇りが持てる会社というのは、「私が」働きたい会社です。

私が入社したのは約30年前ですが、当時は昔ながらのやり方が強い町工場でした。その時に自分が働きたい会社はこういう場所ではない。と考えたのがきっかけです。
私は音楽やファッションに没頭していた個性の強い学生でしたが、会社に入社すると個性をだしてはいけないという雰囲気に窮屈さ感じていました。
自分の働きたい会社を考えたときに、自分自身の個性を認めてくれる会社が良い会社なのでは。と漠然と考えていたことが、まずはきっかけです。

島田正孝 社長
島田正孝 社長
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
ご自身の想いからのスタートだったのですね。
さきほど、約30年前に入社というお話しでしたが、学校を卒業してすぐに家業である島田電機製作所さんへ入社されたのですか?
専門学校卒業後に就職したのは茨城県にある自社のグループ企業でした。数か月間その会社で研修を受けた後は、取引先の大企業で3年間修行させてもらい、24歳の時に島田電機へ入社しました。
島田正孝 社長
島田正孝 社長

2.会社を変えた4つの改革

カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
24歳で入社しても、すぐには入社「自分の働きたい会社」にするのは大変そうですが、どういったことからはじめたのですか?
大手企業から、島田電機に入社したとき、全てが古いと感じました。とはいえ自分が何かできるわけではないので、まずは社内のことをすべて経験しました。モノづくりから生産管理、設計、お客様対応などの会社のすべてを見てから4つの改革を実行しました。

 

行った改革の一つ目は人事制度をつくることです。年功序列型からの脱却を図るために、社員の評価の仕方を、コンサルタントをいれてしっかりとつくりこみました。

 

二つ目はISOの取得です。それでまでは品質の基準があいまいだったものを、ISOを取得して明確な基準で運用できるようにしました。

 

三つ目は内製化です。数千万円の新しい設備を購入し、業務を、内製化して付加価値を増やしました。

 

四つ目は顧客拡大です。新規の営業を始め、大手のエレベーターメーカーに営業をかけ、顧客を拡大していきました。

島田正孝 社長
島田正孝 社長
その改革で、会社の新しい考え方に合わないと、実際に3分の2の社員が離職しました。

結果論ですが、そのときに大量に社員が辞めてでも改革を実施してよかったと考えています。その時やらなければ今も何も変わらなかったでしょうから。そのときに採用したメンバーが、今は管理職のメンバーになっています。

島田正孝 社長
島田正孝 社長
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
かなり具体的な話しをありがとうございます。
社員の3分の2が辞めたというのは経営者としては心苦しく、きつい部分もあったと思いますが、離職率が高くなってでも実行する。という強い意志があったのですね。
そうですね。過去にとらわれないことが自分のスタンスですから。会社のこれからを考えて、将来的に必要であれば、それに向かって進みます。
島田正孝 社長
島田正孝 社長
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
トップが将来を見据えて厳しい判断をすることは非常に重要ですよね。代表に就任されたのは約10年前ですが、今仰っていた4つの改革は代表就任以前からやっていたのでしょうか?
やっていました。
24歳で入社した際は、そこまで将来のことを深く考えていたわけではないのですが、「これからは自分がこの会社をやっていく」という気持ちに段々とシフトしていき、様々な施策に取り組んでいました。
島田正孝 社長
島田正孝 社長

3.「社員が働くことに誇りを持てる」ために情報発信を強化。今では日本一予約の取れない工場見学に。

カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
4つの改革をはじめ、今ではそれ以外のも様々な取組みをされているかと思いますが、「社員が働くことに誇りを持てる会社」にするためにやったことを具体的に教えていただいてもよろしいでしょうか。
「社員が誇りにもてる会社」になるためには社員一人ひとりが「自分達の仕事がいかに社会の役に立っているのか」を知ることはとても大切だと考えています。

当社はもともとエレベーターメーカーの下請けですので、世に名前はでませんし、BtoBなので一般の方からの知名度はほぼゼロでした。自分たちが取り組んでいる仕事が、どれほど社会に貢献しているのか、社員は肌感で全く感じられない状態でした。

そこで私たちの仕事をもっと見て頂きたいという思いから、広報活動に力を入れて取り組み、企業姿勢をメディアへ発信していきました。その一環として工場見学も始めました。いまは弊社の工場見学は日本一予約が取 れないと言われています。元々知名度の低い会社でしたが、こうやって多くの方に興味を持って頂き我々の認知を高めたことで、社員の誇りへと繋がったと考えます。

島田正孝 社長
島田正孝 社長
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
外部に発信し、社会からの認知を高めることが社員の誇りにつながる。ということですね。
そうですね。
働きがいを追求していくと成長と成果の2つだと思います。まずは成長できる環境を整え、そして成果をだす。成長と成果を連携させて、社員の働きがいや意欲を高めるように意識しています。
島田正孝 社長
島田正孝 社長
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
成長と成果というと二律背反のような関係でとらえる方もいますが、本来は島田さんのおっしゃる通り、相互補完の関係性ですよね。
ちなみに工場見学はだれのアイデアで始めたのでしょうか?
基本的に取組みのはじめの一歩はすべて私ですが、工場見学のきっかけは一般の方からの「こどもがエレベーターのボタンが好きなので、工場見学できませんか?」という連絡でした。だったらもっとああしよう、こうしようなど社員を巻き込んで今は一丸となって取り組んでいます。

発案は私でも、実行では社員を巻き込んでいくことを大切にしています。

島田正孝 社長
島田正孝 社長

4.「らしさ」を大切にする社風が、結果的に離職対策にもつながる

カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
様々な取り組みをされていますが、特に離職対策になっている取り組みがあれば、詳しく教えて頂けますか。
取り組みではないのですが、私が考えているのは「若い人が働きたくなる会社」です。

そのためには今っぽさ、ユニークさ、ゲーム性を仕事にどう取り入れるかをとても大切にしています。

ですから、堅苦しいことは全くやっていません。例えば社内表彰にしても堅苦しいものではなく、サイコロ振ってその場で賞金を決める形式にしています。ゲーム性を取りいれることで社員一人ひとりに参画意識を持ってほしいからです。
「企業は人なり」ですから、人の気持ちをどう動かすかを重視していて、デザイン性やかっこよさ、いまっぽさをプラスし、若い人が参加したくなるように工夫しています。
でも実はこれらの考えは、根本的には昔ながらの日本企業が大事にしているイベントと変わらないと思います。ですから、うちの会社は飲み会や綱引き大会などもやっています。

島田正孝 社長
島田正孝 社長
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
今っぽさやゲーム性は大切なキーワードですよね。MVPも他社のように営業成績では決めないとお聞きしました。
そうです。「髪型が似合っている人」「笑顔が素敵な人」など、その人自身を評価するようにしています。そのイベントがきっかけで社内全体に目を向ける様にして欲しいからです。
私は「その人自身」や「らしさ」をとても大切していますし、「らしさ」を活かしてパフォーマンスを発揮してほしいと考えています。「らしさ」がその人の一番のスキルですから、そこを引き出すためにイベントを行っています。
島田正孝 社長
島田正孝 社長
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
「らしさ」がキーワードですね。まさに先ほど仰っていた「個性を発揮できる環境」を実現されていらっしゃいますね。
「らしさ」をより掘り下げると、エンゲージメントにもつがると考えています。

会社や上司が、部下の一人ひとりの「らしさ」を認めることで、自発的に貢献、主体的に働くようになり、部下のエンゲージメントが高くなるのではないでしょうか。

島田正孝 社長
島田正孝 社長
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
採用のHPなど見ると「自分らしい服装で参加してください」と書かれていましたが、中小のメーカーでは珍しいですよね。
「らしさ」を大切にすることは重要だと思うのですが、一方で業務や成果を出していくことも企業にも求められます。その点の工夫があればお伺いさせてください。
うちは受注生産ですので、オーダーに対して質の高いものを作らなければいけません。
「生産性を上げろ。無駄なことをやるな。」では効率は上がっても社員のモチベーションは上がりません。それでは質の高い仕事はできません、
私は生産性を上げるよりもパフォーマン スを上げることが正しいと考えています。ですので、パフォーマンス上げるためには「組織のためにどう貢献できるか」を社員に考えてもらうような人事制度にしています。

ですから人事制度で最も重要視しているのは、業務 貢献よりも「組織貢献」です。たとえば、挨拶やゴミ拾いなども組織貢献の一つと考えています。自分の部署だけ見ている人は気づけませんから。うちは「組織貢献」を社員に求めていますが、一人ひとりの役割を細かくは求めていません。

島田正孝 社長
島田正孝 社長
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
役割の話がありましたが、過去に働きやすさと働きがいを両立している企業の中には社内交流と各自の能力向上のためにも積極的にジョブローテーションする企業もありました。

御社ではジョブローテーションのようなものはあるのでしょうか?

弊社ではジョブローテーションはあまり行っていません。各業務には専門領域があるので。その代わり、委員会活動のような形で、部署横断で様々な人と交流できるようにしています。

また、ジョブローテーションまではいかなくでも仕事に波があるときには、他の部署を応援するようにしています。最近の若い社員の方で「この仕事しかやりたくない」という方は少なく、みなさん柔軟性があるので、弊社でももう少しジョブローテーションのような形はやっていきたいですね。

島田正孝 社長
島田正孝 社長

5.「らしさ」重視の会社だからこそ価値観に共感してくれる人の採用を実現

カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
対策の取組みの前後で何か変化がありましたら教えてください。
「辞めない会社」というよりも、「人が集まる会社」にはなりました。

新卒採用も2024年の新卒で6期生になり、直近3年以内の新卒の定着率は約80%です。広報活動の効果もあって、地方出身の方でも、「ここで働きたい」と遠方からも就職を志望してくれるようになったのが一番の変化だといえます。
人が集まる理由が、近隣だからではなく、弊社の価値観に共感してくれているからだと考えますし、この変化はとても大きいと思います。

島田正孝 社長
島田正孝 社長
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
面接の応募も多いと思いますが、島田電機製作所さんの採用の重視ポイントはどこなのでしょうか?
一番重要視しているのはカルチャーフィットです。弊社のカルチャーに合っているか、価値観を共有できるか、その人の「らしさ」を一番見ていますね。過去のことよりもこれから「何ができるか」を重要視しているので、弊社で何を成し遂げたいのか、なぜうちの会社なのか?を特に掘り下げて面接しています。

面接も一般的な面接ではなく、ガチャガチャの中に質問が入っており、志望者に引いて、答えてもらうガチャガチャ質問をしています。ざっくばらんに話をするためで、もちろん質問内容も「好きな芸能人は?」などラフなものから始め、段々とその人の本質的なところに踏み込むようにしています。相性がいいとそのまま飲み会で交流してもらい、弊社のメンバーとの相性をみています。

島田正孝 社長
島田正孝 社長

6.人事施策を考えるときは「三方良し」を大切に

カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
すでに様々な取組みをされていますが、新しい人事施策を導入する時のポイントがあれば教えてください。
端的に言えば“三方良し”です。社員にとっても、会社にとっても、世の中や顧客にとっても良い“三方良し“を大切にしています。そのバランスが悪いと結局長続きしません。三方良しのなかに、社員の意欲を掻き立てるために重要な今っぽさ、ゲーム性やユニーク性は必ず取り入れるようにしていています。
島田正孝 社長
島田正孝 社長
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
だからこそ表彰式も堅苦しいものではなく、「みんなで楽しく」なんですね。
単純にみんなで楽しめる形にしています。弊社の心理的安全性はそこから生まれているのではと考えます。形にとらわれないようにしていますね。
島田正孝 社長
島田正孝 社長

7.20年ぶりにコーポレート・アイデンティティを刷新予定。これからも新しい挑戦は続く。

カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
井上:今後の展望や、現在取り組み始めている施策などありましたら教えてください。
今はCI(コーポレートアイデンティティー)の見直しをしています。今のCIは20年前に作成したもので、これからは市場や社会に向けての発信にむけて言葉をすべて変え、ビジョンやミッションスローガンなども伴って変えていこうとしています。
また島田電機らしいものをつくろうとWebサイトもリニューアルしていますし、工場見学が予約のとれない状態になっているので、新しい遊びと学びの空間として「ボタンラボ」という工場見学用の施設をつくっています。
あとはユニフォームも作業着だったものを、アパレルのBEAMSに依頼し、かっこよく自分たちらしいオリジナルのものに作り替えている最中です。

他にも、組織の形という意味では、20代が約27%の割合になり、若い人たちが増えていますので、これからは次の組織の形を目指して、管理しない組織 ホラクラシー組織にしたいですね。人の管理ではなく、ルールの管理に変えて、一人ずつに役割を持たせ、自発的にルール を守って動いていく。そんな組織を目指しています。

島田正孝 社長
島田正孝 社長
カイラボ代表 井上
カイラボ代表 井上
これまでの取組みだけでなく、これからの取組みについても具体的に教えていただきありがとうございます。工場見学用施設なんて非常に楽しみですし、ユニフォームの刷新も社員にとっては嬉しいですよね。今後の島田電機製作所さんが益々気になります。本日はお忙しいところお時間いただきまして、誠にありがとうございました。

株式会社島田電機製作所のご紹介

ー会社概要ー

社名株式会社 島田電機製作所
Webサイトhttps://www.shimada.cc
所在地東京都八王子市大和田町3-11-1
Tel:042-656-1401(代) Fax:042-656-1402
代表者代表取締役社長 島田正孝
設立1949年2月24日(昭和24年2月24日)
払込資本金1,200万円
関連会社株式会社内原電機製作所
株式会社カネダエンジニアリング

 

インタビューにご対応いただいた島田正孝さんプロフィール

株式会社島田電機製作所 代表取締役社長 島田 正孝さん略歴

1969年生まれ。東京都出身。専門学校卒業後、1990年に島田電機の関連会社に入社。日立の工場へ出向し経験を積んだ後、1993年に24歳で株式会社島田電機製作所に入社する。旧態依然の古い町工場を大改革した後、2008年に中国上海へ赴任し現地法人を設立。2013年に本社の移転を機に5代目の代表取締役社長に就任。現在は経営者として人中心の組織づくりに情熱を傾けている。モットーは、過去や常識にとらわれない。