先週のブログで残業時間と早期離職率は関係性がないとお伝えしました。そのときはデータが「通信・ソフト」の業界だけでしたので、もしかすると業界特性によるものだったかもしれません。
そこで、今回は同じく就職四季報に掲載されている「小売」業界のデータで同じように残業時間と早期離職の関係をみてみました。
前回と同じようにまとめたのが下のグラフです。(月平均残業時間と3年以内定着率)
今回はサンプル数が56と前回よりも少なくなっています。
「小売り」と「通信・ソフト」の就職四季報への掲載数はほとんど変わらないのですが、小売業は定着率や残業時間の無回答が多かったためサンプル数としては少なくなったのだと思います。
さて、グラフに戻ります。
横軸に残業時間、縦軸に定着率をとっています。もし、残業時間を減らせば離職率も減るのであれば全体的に右肩下がりに点が打たれているはずです。でも、実際にはそのようになっていません。
近似直線もR^2=0.02となっていますので、残業時間と定着率の間に相関関係はないことになります。
今回もサンプルが少ないですし、そもそものサンプルのとり方が就職四季報の掲載企業のみ。さらに残業時間も定着率も企業からの回答をもとにしているため、残業時間が長い企業や定着率の低い企業は無回答にしている可能性が考えられるなど、真実を表していると言い切るのは難しい状態です。
それでも、こういう分析の結果は企業の早期離職対策を考えるにあたって参考になる面白いデータではないでしょうか。
就職を考える学生や転職希望の社会人にとっても残業時間と早期離職率は気になるデータだと思います。
「残業が多い=ブラック」「早期離職率が高い=ブラック」と考えている人も少なくはないでしょう。
どちらもブラック企業を連想させる要因でありながら、その2つには相関関係がないというのはなかなか面白い結果ではないかと思うのです。
誤解のないように言っておくと、企業の残業時間削減が無駄だとは思いません。むしろ、日本の多くの企業には業務の効率化と残業時間の削減は必要だと思います。
ワークライフバランス推進についても、社会にとって必要なことは明らかでしょう。そこに異論はありません。
だからといってワークライフバランス推進が企業の抱える問題をなんでもかんでも解決してくれるわけではありません。にも関わらずなぜかワークライフバランス推進をうたう人の中には万能薬のようにうたう人もいるので、敢えてこんな分析結果をのせてみました。
企業の抱える問題は複雑化していて、何か一つを解決すれば大丈夫なんてことはありません。
問題意識が強すぎる人ほど万能薬や特効薬を求めてしまうわけですが、それぞれの問題の要因とその関係性を明らかにしないと、むしろ企業はどんどん疲弊していくだけではないでしょうか。