最近、パワハラで会社や管理職を相手取り、裁判が起こされるケースが増えていると言われます。
「パワハラはいけないとはわかっていながら、具体的にどのような発言や行為がパワハラになるかわからない。」
「またはすでにパワハラを行っているかもしれず、自信がもてない。このような方は少なくないのではないでしょうか。」
この記事では、実際に裁判になった事例からどのような場合にパワハラになるのか、注意点とともに解説します。
本記事の要約
パワハラ防止法
「パワハラ防止法」という法律をご存知でしょうか。
これまでこの法律が適用されるのは大企業だけでしたが、2022年4月から中小企業にも適用されるようになりました。
企業の規模に関わらず適用されるこれからは、ますますパワハラに注意が必要になります。
【解説動画】
こちらの記事はYouTubeにて動画解説もしております。ぜひ合わせてご参考ください。
パワハラ事例1 有給取得の妨害
ご紹介するパワハラ事例の1つ目は、有給取得の妨害でパワハラと認定された事例です。
学習塾での事例になります。
有給休暇の取得申請をした部下に対し、
「今月末にはリフレッシュ休暇をとる上に、6月6日まで有給をとるのでは、非常に心象が悪いと思いますが。どうしてもとらないといけない理由があるのでしょうか。」
とメールを送り、有給所得を妨害しました。
他にも、「これでは仕事を任せられない」などといった、評価が下がる旨の発言も行っています。
裁判において、上記のような上司のメール及び発言は、原告の有給休暇を所得する権利を侵害する行為であるとして違法と判断されました。
有給休暇の取得に関しては、企業側にも「時期変更権」というものがあり、繁忙期に有休を希望する場合は変更を依頼する権利があります。
しかしこのように有給取得時に、評価が下がるなどといった発言はいわゆる脅しであり、違法であるとしてパワハラに認定されました。
パワハラ事例2 部署の問題点を指摘後に業務から外す
2つ目の事例は、部署の問題点を直接の上司ではなく、さらに上の上司に指摘。その為、直接の上司から業務を外されたというケースです。
がんセンター手術管理部に勤務する麻酔科医が、直属の上司である手術管理部長を通さずに同部の問題点をセンター長に上申しました。
その後麻酔科医は報告をとばされた当該部長から、一切の手術から外すなどの報復を受け退職を余儀なくさせられました。
この事例の裁判では、手術から外したのは報復行為であり、退職との因果関係も認められ損害賠償の支払いを命じました。
このように何か自分がされたことに対して、上司側が業務から外すなどの報復行為を行うということは違法になります。
裁判の詳細をみると、上司は業務から外したことについて「報復行為ではなく、別の理由があった」と述べていますが、それは認められませんでした。
パワハラ事例3 叱責や人格否定発言で社員が自殺
3つ目の事例は、叱責や人格否定する発言で社員が自殺してしまったというケースです。
社員Aさんの直属の上司は、Aさんに仕事上の失敗が多いとして、自分が注意したことは必ず手帳に書き、その後ノートに書き写すように指導していました。
Aさんが記していたノートには「辞めてしまえ」「死んでしまえ」といった言葉をかけられていたことが書かれていました。結果、Aさんは退職し自殺してしまいました。
裁判所はノートの内容から、上司の叱責や指導は仕事上のミスに対する域を超え、Aさんの人格を否定し威迫しているものと認定し、会社と上司に対して約7261万円の支払いを命じました。
では、実際にノートにはどのような言葉が残っていたのでしょうか。
社員のノートに残っていた言葉
「学ぶ気持ちはあるのか、いつまで新人気分」
「わがまま」「死んでしまえばいい」「辞めればいい」
「申し訳ない気持ちがあれば変わっているはず」
「人の話を聞かずに行動、動くのがのろい」
「相手するだけ時間の無駄」
「指示が全く聞けない、そんなことを直さないで信用できるか」
「何で自分が怒られているのかすら分かっていない」
「反省しているふりをしているだけ」
「いつまでも甘々、学生気分はさっさと捨てろ」
「今日使った無駄な時間を返してくれ」
ノートに書かれた言葉のうち、「死ね」や「辞めてしまえ」などという言葉は間違いなくパワハラだとおわかりいただけるでしょう。
しかし他に挙げた言葉なら、例えば「学ぶ気持ちはあるのか」「教えるだけ時間の無駄だ」などをかけていることはないでしょうか。
もし言ったことがある、もしくは指導や注意をするときに言ってしまっているという場合は、注意が必要かもしれません。
職場におけるパワハラの3要素
職場におけるパワハラの3要素は、次の3つになります。
- 優越的な関係を背景とした言動
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
- 労働者の労働環境が害される
次から詳しく解説していきましょう。
優越的な関係を背景とした言動
優越的な関係とは、基本的に上司・部下の関係です。
人事権を有しているなど直接的に上司・部下の関係でなくても優越的な関係であれば、それを背景とした言動はパワハラと認定されることがあります。
業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動
業務上必要な叱責や注意は認められています。
パワハラと認定されるのは、その範囲を超えた言動になります。
労働者の労働環境が害される
身体的、または精神的な苦痛が与えられるなど労働環境が害されている場合、パワハラと認められます。
これら3つ全てを満たした場合がパワハラにあたると、厚生労働省は発表しています。
このように、叱責すること自体がパワハラになるのではありません。
業務上必要な時に叱責すること、あるいは立入禁止の場所に侵入したり、その行為によって他の社員の命も脅かされるなど危険が予知される場面で制止のために怒鳴った場合は、仮に裁判になったとしてもパワハラとみなされる可能性は低いでしょう。
対応するシチュエーションによって変化することではありますが、このパワハラの3要素については覚えておいてください。
まとめ
2022年4月から、中小企業にもパワハラ防止法が適用されることになりました。
今までの事例をみると、管理職個人に対して多額の賠償請求命令をされることもあります。
裁判では「自分はパワハラだと思っていなかった」という説明は通用しません。
無意識でのパワハラには注意してください。
これはハラスメント全般に言えることですが、ハラスメントする側は無意識で行うことが多く、罪の意識がありません。
「ハラスメントなんてしていない」
「これは必要なこと」「このくらいみんなやっている」「あの人はやられて当たり前」
などのように考えることが多くみられます。
もし部下との関わりにおいて「このくらいやっても当たり前」だと行っていることがあれば、それは本当にパワハラに当たらないのかと常に振り返り、自問自答してみることが必要です。
ハラスメント以外についても、部下とのコミュニケーションの取り方や叱り方、フィードバックの方法などを他の記事でも解説しています。ぜひご参考ください。
皆さんの職場での良い職場づくり、社員同士の関係性づくりにお役に立てば幸いです。