「昔は叱れば人が育ったのに、今は思うように叱れなくなった」
管理職の方から、このような話をよく聞きます。
しかし本当に、叱れば人は育ち、よく仕事をするようになるのでしょうか。
この記事では、叱ることによってもたらされる影響や、どのように指導していけばよいかということをお伝えしていきます。
こちらの記事の内容は、YouTubeの動画解説でもご覧いただけます。ぜひ合わせてご参考ください。
本記事の要約
叱れなくなっている管理職
叱って指導することの是非は、人によって様々な意見があります。
しかし最近では、「叱れない管理職」が増えているのではないでしょうか。
管理職の方々から、次のような声をよく聞きます。
「なんでもかんでもパワハラと言われる」
「叱れないから育成なんてできない」
「怒鳴るのが一番早いのにできない」
「厳しく指導した昔の方が人が育った」
昔に比べて叱れなくなっている理由に、パワハラやセクハラといったハラスメントやコンプライアンスが厳しくなった等の問題が挙げられます。
また、最近は人の気質が変わって叱るとすぐやる気をなくしてしまう、昔はそうではなかったと考える方もいます。
叱った方がちゃんと仕事するのに
叱った方が人は育つのに
この考えは、本当にそうなのでしょうか。
なぜ、人は怒られると行動を改善するのか?
怒られた時、人の身体では次のようなことが起こっています。
怒られた時に言葉の暴力を受ける、または怒鳴られたり殴られるなどをすると、脳で本能的にそれを生命の危機であると認知します。
そうすると、危機を回避するために身体ではストレスホルモンであるコルチゾールやノルアドレナリンが分泌されるのです。
ストレスホルモンの効果と身体への影響
上記のストレスホルモンは、一時的に集中力を高める効果があるといわれています。
原始時代、生命の危機にさらされる状況といえば獣や敵に襲われる時でした。
身を護るための防衛本能として、一時的に集中力を高めることで危機を乗り切ったのです。
叱られると生命の危機を感じるため、一時的に集中力を高められます。
これは一見良いことの様に思われますが、ストレスホルモンによって集中力を高める時には、身体の回復機能を犠牲にしているといわれています。
回復機能とは切り傷やすり傷などの外傷についてだけでなく、内臓機能についても同じことがいえます。
生命の危機に面したとき、回復のためのエネルギーまでも最小限に抑えることで、集中力を高めているのです。
そのためさらされるストレスが長期に渡ると、病気にかかるリスクが高まり、またかえって集中力の低下などを引き起こすこともあるといわれています。
つまり叱るという行為は、一時的には集中力を高められても、長期的には効かなくなるということがいえます。
さらに叱ることでストレスがかかりすぎると、メンタル面での疾病を発症する可能性も高まります。
確かに叱ることは一時的に相手の集中力を高めるかもしれません。
しかし長期的に見た時の効果やメンタル面でのリスクを考えると、本当にメリットがあるのかは大いに疑問が残ります。
今の時代に則した指導方法を考える
こういったことから、叱ることに頼らない今の時代に則した指導方法を考える必要があるでしょう。
次のような、過去の成功体験を抱いている方はいないでしょうか。
「叱れば仕事にまじめに取り組んだ」
「叱られて必死に取り組んで成長した」
これらは実際に自分で得た成功体験かもしれません。
しかし今の時代は情報化社会と呼ばれ、私たちはSNSやネットなど色々なところでストレスにさらされ続け、さらにそれが絶え間なく続いていく状況にあります。
一時的なストレスを乗り越えれば、ストレスがなくなって幸せになるという社会ではないのです。
常にストレスにさらされている状態なので、叱られたストレスを乗り越えれば解決ということにはなりません。重たいストレスがさらにかかってくる状態になります。
怒られ、怒鳴られたりすることで一時的にストレスがかかるのは、集中力を高める効果以上に長期的なストレスで体調を崩したり集中力を失う可能性の方が高まります。
叱るという行為は、今の社会に必要である適度なストレスコントロールを邪魔してしまいます。
そのため、今の時代に則した方法とは言えないでしょう。
身体を犠牲にしない集中力アップのホルモン
集中力をアップさせる方法は、ストレスホルモンのように身体を犠牲にするホルモン以外にはないのでしょうか。
実は身体には、他に集中力を高めストレスホルモンの分泌を抑えるホルモンが備わっています。
それは、セロトニンというホルモンです。
ストレスホルモンのコルチゾールやノルアドレナリンには、一時的に集中力を高めるというメリットがありますが、同時に身体機能の回復を損なうというデメリットもあります。
一方このセロトニンは、集中力を高めるだけでなく、他にメリットもあるのです。
セロトニンは、適度な運動やバランスの良い食事、充分な睡眠によって分泌が促されます。
セロトニンの分泌を増やしていくために充分な睡眠をとるには、働き方改革を行って残業をなくすことが必要になります。
バランスの良い食事をとるには、食事に気を使えるようにお昼休みをきちんととれるよう仕事を調整しなければなりません。
また適度な運動を行うためには、職場の環境整備も必要になるかもしれません。
またセロトニンなどのよい働きをするホルモンは、人に優しく接したり優しく接してもらうことでも分泌が促されるといわれています。
叱るよりも人に優しくしたり優しくされる、また人を認めるという方が結果的に仕事に対する集中力を高め、仕事の効率を上げることにつながるということです。
以上のような意見を聞いても、やはり叱る方がよいやり方だと考える人はいるでしょう。
このような人は、「叱る」以外のコミュニケーションを知らないのだといえます。
時代が変わったから叱れなくなったのではなく、人に対するコミュニケーションの幅が狭すぎるのです。
まとめ
人は叱られると、ストレスホルモンを分泌します。
叱られることでストレスホルモンによって一時的に集中力は増しますが、身体の回復機能を犠牲にしてしまいます。
そのため、叱ることを中心とした指導は絶対に長続きしないでしょう。
「叱れる昔のほうが良かった」と懐かしむことは決して悪いことではありませんが、今の問題を解決するわけではありません。
大事なのは、ストレスホルモンよりむしろセロトニンなどの良いホルモンを分泌するために人に優しくしあい、コミュニケーションをきちんととって互いに認めあうことです。
では、認め合うコミュニケーションはどのようにとればよいのでしょうか。
コミュニケーションのために必要なスキルである「傾聴」や「共感」については、他の記事でもご紹介していますので、ぜひそちらもご参考ください。
今回の記事では、叱ったほうが仕事をすると勘違いする理由について、ホルモンの観点からお伝えしました。
職場で働く皆さんが元気で幸せに働ける職場づくりを目指すために、お役に立てば幸いです。