最近、ニュースなどで「リスキリング」というワードをよく耳にします。
リスキリングは重要だとよく言われます。しかし、具体的にどのようなことをしているのかわからないという方もいるのではないでしょうか。
今回は、リスキリングでみなさんはどのようなことをしているのか、各企業はどうやって取り組んでいるのというのをご紹介します。
本記事の要約
リスキリングが必要と思う人は約8割
株式会社マイナビが正社員に対してリスキリングの実態調査を行った結果、次のようになりました。
Q.今の自分に「リスキリング」は必要だと思うか
- そう思う 79.6%
- そう思わない 20.4%
世代別に見ると
株式会社マイナビ 正社員のリスキリング実態調査 2023
- 最多は30代 83.5%
- 最小は50代 75.5%
上の結果から、世代を問わず全体の7〜8割の人はリスキリングが必要だと考えていることがわかります。
最近あらゆるところでリスキリングの必要性が言及されていることや、仕事で求められているスキルの変化を感じているこその結果でしょう。
(この記事の内容は、こちらの動画でも解説しています。)
リスキリングをしたことがある人は意外と多い?
では、どのぐらいの人が実際にリスキリング経験を持つのでしょうか。
Q.「リスキリング」をしたことがあるか
株式会社マイナビ 正社員のリスキリング実態調査 2023
- 現在している 20.6%
- 過去にしていた 27.8%
- したことはない 55.3%
リスキリングをしたことがないという人が半数を占めているものの、リスキリングを経験したことがある人は「現在している」と「過去にしていた」で合わせて50%弱はいるというのが意外な印象です。
企業が社員の学び直しのためにやっていること
ここまでは、個人の視点からのリスキリング実態調査でした。
一方、企業を対象にしたリスキリングの調査で、リスキリングに限らずスキルアップなどの社員の学び直しのためにどのようなことを実施しているかという質問があります。
Q.社員のスキルアップ、学び直しのために実施していること
株式会社学情 社員のスキルアップ・学び直しの支援に関する調査 2023より
- 資格取得支援 78.7%
- 社内研修の実施 68.8%
- 社外研修の活用 60.3%
- eラーニングの導入 44.9%
- 書籍の購入補助 23.2%
これは、企業の人事担当者が回答しています。
資格の取得は約8割という結果でした。資格の内容はこの調査からはわかりませんが、情報系や語学系の資格など様々な種類を含むと考えられます。
企業の側でも、上記のような学び直しの支援を実施しているのです。
世代別のキャリア自立に対する意識
今リスキリングが注目されている背景の一つに、「キャリアを自立的に作っていくべきだ」という考えの普及があります。
カイラボでもキャリア研修の要望を頂くことが多く、新入社員研修から次期主任、係長になる社員を対象にした研修まで幅広いタイミングでのキャリア研修が求められています。
会社から指示されたからスキルを学ぶというのではなく、自分で能動的にスキルを学んでいくという姿勢がだんだん広がってきているようです。
先ほど質問結果を紹介した学情では、次のような調査も行っています。
Q.主にどの世代で「キャリアへの自立」への関心が高くなっていますか?
株式会社学情 「キャリアの自立」に関する調査 2023より
- 20代 64.6%
- 30代 30.6%
- 40代 2.8%
- 50代 2.1%
これを見ると20代が圧倒的に高く、30代〜50代になると大きく差がついています。
特に30代から40〜50代では驚くほどの差がついており、かなり低くなっているのがわかります。
人材版伊藤レポートより リスキルのポイント
リスキルとはリスキリング、つまりリ・スキール(Reskill)であり、スキルを新しくしようという考え方です。
経済産業省で実施された「人的資本経営の実現に向けた検討会」をとりまとめた報告書である人材版伊藤レポートの中にも、このリスキルのポイントが掲載されています。
具体的なポイントとして、次の5つが挙げられているのです。
- 組織として不足しているスキル・専門性の特定
- 社内外からのキーパーソンの登用、当該キーパーソンによる社内でのスキル伝播
- リスキルと処遇や報酬の連動
- 社外での学習機会の戦略的提供(サバティカル休暇、留学など)
- 社内起業・出向起業の支援
次から、くわしい内容を解説します。
1.組織として不足しているスキル・専門性の特定
スキルは何でもいいのではなく、ましてや世間で流行しているからという理由で選ぶものでもありません。
組織としてどのようなスキルが足りていないのか、という観点からリスキルするのが重要です。
2.社内外からのキーパーソンの登用、当該キーパーソンによる社内でのスキル伝播
社内でスキルを持つ人、あるいは社内にいなければ中途採用や顧問契約、外注や業務委託にするのかと方法は様々ですが、リスキルに際しては当該スキルに関するキーパーソンを登用しましょう。
3.リスキルと処遇や報酬の連動
リスキルと給料やボーナスを、きちんと連動させることが大切です。
このポイントは気になる方が多いでしょう。さらに詳しい内容を、後ほど別項で解説します。
4.社外での学習機会の戦略的提供(サバティカル休暇、留学など)
最近、越境学習というワードが話題になっています。
自分の所属している領域から越境して、新たな分野を学習していくという考え方です。
5.社内起業・出向起業の支援
日本の伝統的な大手企業でも最近よく見られるケースですが、社内での起業や社内ベンチャーへ出向して代表役員になる事例が多くなっています。
このような社内起業や出向起業を推進することで、組織全体のリスキルを促す狙いがあるのです。
リスキルと処遇や報酬の連動 3つのポイント
人材版伊藤レポートにおけるリスキリングの3番目のポイント「リスキルと処遇や報酬の連動」には、次の3つのポイントがあります。
- リスキル後に期待するポジションやミッションの伝播
- 市場価値を意識したリスキル後に期待される報酬水準の明確化
- 社員が互いに学び合う場の設置による、リスキルへの動機付け
それぞれ、詳しく見ていきましょう。
1.リスキル後に期待するポジションやミッションの伝播
社員にリスキルによって新しいことを学ばせたりスキルを一新させた後、会社でどのようなポジションからその能力を発揮してもらうのか、あるいはどのような役割を担ってほしいのかを初めにきちんと伝えるべきです。
これが、実際には意外とできていないようです。
「とりあえずリスキリングが大事だから、やっておいて」では、指示された社員のモチベーションは維持できません。
そのため、あらかじめリスキル後のポジションやミッションを伝達しておくことは大切なのです。
2.市場価値を意識したリスキル後に期待される報酬水準の明確化
リスキルでスキルが身につけば、その会社における価値だけではなく、転職市場での価値も当然高まります。
転職市場での価値が高まっているのに、自社内で報酬が上がらなければ社員のモチベーションは下がってしまうでしょう。
リスキル後には市場価値に合わせた報酬を提供するか、市場価値と完全に同様といかなければ、ある面での処遇を優遇するといった対応が必要になります。
3.社員が互いに学び合う場の設置による、リスキルへの動機付け
リスキリングは、社内で意識の高い人だけがすれば良いというものではありません。
社内全体でリスキリングが必要であることや、スキルを身につけることによって可能になること、将来的に得られるポジションなどを示すことが重要です。
上記に挙げた3つのポイントも、人材版伊藤レポートに掲載されています。
経済産業省のホームページから無料で見れる内容ですので、みなさんもぜひご覧になって参考にしてください。
まとめ
リスキリングが必要だと感じている人は、正社員全体の約8割です。しかし、実際にやったことがないという人は半数以上います。
企業側におけるリスキリングの現状としては、資格取得の支援がメインになっています。しかし、おそらくこれだけでは足りていません。
さらにリスキリングに深く関わっていくとすれば、今まで以上にリスキルや学び直しは重要な話題になっていくことが予想されます。
自分にとって、あるいは自社にとってリスキルの定義とは何なのかということを考えるのが、リスキルへの第一歩です。
社会的にこれが必要だ、他社の事例でこれがリスキルだとされるものを真似すれば良いかといえば、そうとも限りません。
自分、あるいは自社ではこれまでの経歴や強み、社風なども違います。そのため、ただ他の真似をすればいいわけではないのです。
自分や自社にとってのリスキルの定義を考えれば、必ずしも資格取得=リスキルではないはずです。
資格の取得や特定の試験で点数をとるなどでリスキリングが終わってしまっている企業や組織は、さらにもう一歩やれることがあるでしょう。
今後はおそらく、そういったものがリスキリングのスタートになっていくのではないでしょうか。