大手でも若手が3年で辞める時代の到来?

厚生労働省が毎年発表する「新規学卒者の3年以内離職率」は、若手社員の定着状況を読み解くうえで欠かせない指標です。

2025年10月に発表された2022年卒大卒者の3年以内離職率(以下、早期離職率)は33.8%
昔から「3年で3割が辞める」と言われていますから、今年の数字も例年通りと言えるかもしれません。

ですが、企業の規模別に見ると単純に例年通りとは言えない状況も見えてきます。

このコラムでは、若手の早期離職の実態と企業期別の傾向についてお伝えします。なお、本コラムの内容はYoutubeでも解説しているので、ご覧ください。


大卒の3年以内離職率は前年比1.1pt減の33.8%

まずは、全体の傾向から見てみましょう。

最新データの2022年卒の3年以内離職率は33.8%で、前年より1.1ポイント減少しました。

過去最高は2004年卒の36.6%。また、その前後のいわゆる氷河期世代は約35%で推移していたことを考えると、今年の33.8%は氷河期世代よりは低いことがわかります。

また、直近10年の平均は32.4%です。
今年の33.8%は直近10年平均よりはやや高いものの、大きく乖離しているわけでもなさそうです。

さらに注目したいのが、年次ごとの動きです。

3年以内の離職率は基本的に1年目の離職率が最も高く、次いで2年目、3年目の離職率は最も低くなるのが通常のパターンです。しかし、2020年卒と21年卒ではその傾向が崩れていました。

2022年卒では、 1年目 → 2年目 → 3年目と年次が進むにつれて離職率が下がる、いわば「通常のパターン」に戻りつつあります。

特に3年目の離職率が9.9%と、4年ぶりに10%を下回った点は特徴的です。

コロナ禍で転職を控える動きが強かった2020年卒の特殊な状況を経て、ようやく「平常運転」に近づいてきていると、この数字から見ることもできます。


企業の規模別の早期離職率 社員が多い方が離職率は低い

早期離職率は企業の規模によって大きな差があります。従業員1000人以上の大企業では、2022年卒の早期離職率は27.0%です。

一方、従業員5人未満の企業では50%を超える企業もあり、規模が小さいほど離職率が高くなる傾向は一貫しています。

この構図自体は昔から変わっていませんが、ここ数年で目立つのは「大企業の離職率がじわじわ上がっている」ことです。

統計が確認できる2003年卒以降の企業規模別の早期離職率の推移をまとめたのが下のグラフです。

リーマンショックの影響を受けた2009年卒以降、大手企業の離職率は緩やかな上昇傾向にあり、2022年卒の27.0%は過去2番目に高い水準となりました。ちなみに、昨年(2021年卒)は過去最高でした。つまり、従業員1000人以上の事業所では直近2年で歴代1位、2位の離職率を記録しているといえます。

一方で中小企業は2011年以降ほぼ横ばいです。

このことから、大手企業の早期離職率は中小企業よりも低いものの、以前と比べると高い傾向にあることがわかります。


大手企業と中小企業の早期離職率の差は縮小傾向

こうした変化により、かつての「大手は辞めにくい」「中小は定着が難しい」という明確な二極構造は、少しずつ崩れつつあります。

上のグラフは従業員規模が1000人以上と100~499人の事業所の早期離職率の差を表したグラフです。最も差が大きかった時期には10ポイント以上あった開きが、最近では6〜7ポイント前後まで縮小しています。

直近の2022年卒も6.9ポイント差という結果でした。これは中小の離職が急増したというよりも、「大手での離職が増えてきた」ことの影響が大きいと考えられます。

この変化が、「最近の若者はすぐ辞める」という世間の印象を強めている可能性もあります。

これまで離職が少なかった大企業で若手が辞めていく姿を目にすることで、管理職の体感としても「離職が増えた」と感じやすくなっていることが予想されます。


すべての企業が離職対策に取り組む時代へ

もはや「大企業だから人は辞めない」とは言えない時代に入ったことがわかっていただけたと思います。

人材不足が深刻化する中で、企業規模に関わらず離職対策は経営課題となっています。

一方で、「離職対策が必要なのは分かっているが、何から手をつければいいか分からない」という声があることも、また事実です。

対策を考える時に大切なのは、まずは現状を正しく把握することです。

だからこそ最初に必要なのは、感覚ではなくデータをもとに現状を把握し、社内で共通認識を持つことです。

そのうえで、

・Z世代の価値観を踏まえた育成設計
・OJTの失敗パターンの見直し
・形骸化しないメンター制度の運用
・1on1を通じた継続的な成長支援とフィードバック

といった具体策を組み合わせていく必要があります。
カイラボでは、社内の認識のすり合わせのためにワークショップ(エンプロイージャーニーワークショップ)や、対策立案、対策の実行支援などを行っています。

早期離職は「本人の問題」でも「若者気質」でもなく、組織の関わり方が問われるテーマです。

規模に関係なく本気で向き合う企業こそが、これからの人材獲得競争を制していくのではないでしょうか。