若手のエース社員が突然「辞めたい」と言ってきたとき、上司や人事は何をすべきか?

編集部

新入社員の離職率が3年で3割といわれるように、大卒新卒者の入社3年以内の離職率は、約30年間にわたりおよそ30%を推移しています。この30%のなかには、「エース」といわれる、入社後まもない頃から結果を残していたり、また入社時から期待されていた社員も含まれています。

若手社員のなかでもエース、またはエース候補にあたる若手社員に辞められてしまうのは、会社としては特に大きな痛手となります。そのような社員が突然、離職の意思を伝えてきたとき、上司や人事の方々は何をすべきなのでしょうか?

私たちカイラボは、2012年より早期離職対策のコンサルティングを提供しています。

これまで企業から伺った事例や、実際に早期離職した方とのインタビューから得た知見をもとに、今回は若手のエース社員の離職について上司や人事の方々が理解するべきポイントと具体的な対策方法をお伝えします。早期離職の理解を深めながら、対策を講じる際の参考としてください。

若手のエース社員が辞める理由と心情

若手のエース社員が辞めると言ってきた際、闇雲に対策を講じるのではなく、まずは辞める理由とその際の心情を理解しましょう。

1.エース社員が辞める理由の多くは「成長予感」の不足

私たちカイラボでは早期離職の三大原因として次の3つを挙げています。

・存在承認

・貢献実感

・成長予感

なかでもエース社員が辞める理由は、「成長予感」の不足によるものが圧倒的に多いと感じています。

成長予感とは「現在から未来に向けて自分の成長に対する予感」を指し、簡単にいうと『この会社で働き続けることで、なりたい自分になれるのか?』となります。「この会社にいても、なりたい自分になれそうにない」と感じることで成長予感の不足に繋がり、早期離職の原因となります。

エース社員に残ってもらうためには、この成長予感にしっかりとフォーカスして対策を講じることがポイントになります。

2.「辞める」と言ってきたときには若手のエース社員のなかで辞める決心がついていることが多い

若手のエース社員が「辞めます」と言ってきた時点で、すでに本人のなかではそれなりの決断・決心がなされています。

若手のエース社員の場合、社内の人間関係が良好であったり、自分が必要とされていることを肌で感じている方が多いと思います。そういった状態のなか辞めるのは当然かなり悩むことであり、離職の意思を会社に言い出すということはすでに十分に悩んだ末に決心しているのです。上司や人事はその心情を汲み、しっかりと受け止めてあげることが、対応するうえで大切です。

若手のエース社員が「辞めたい」と言ってきたときの3つの対策方法

ここから、若手のエース社員が辞める意思を伝えてきた際に、上司や人事の方々がとるべき対策方法を3つ紹介します。

①説得の前に、まずは相手の言い分を徹底的に聴く

『まずは相手の話をしっかり聴く』ことを大切にしてください。若手のエース社員から離職の意思を伝えられた上司が取る、よくある対応に「辞めないようにひたすら説得を始めてしまう」パターンがあります。「うちはこんなに良い会社なのに、なんで辞めるんだよ」と会社に残り働くことのメリットを、または辞めることのデメリットを提示するケースがあります。しかし、優秀な結果が残せるような社員であれば頭脳明晰な方が多いと思いますので、そういった説得により心変わりするケースは非常に稀だと思います。まずは、なんとなく話を「聞く」のではなく、「聴く」という傾聴の姿勢を心がけてください。

辞める理由を聴くなかで、「(いや、ちょっとそれはあなたが世間知らずなんじゃないの?)」とか、「(気持ちが一時的に弱っていたり、変な方向に高ぶりすぎてるから、辞めたいと思っちゃってるんじゃないの?)」と感じる言い分もあると思います。そういった際にも、すぐにフィードバックするのではなく、「相手の言い分を全部聴く。とにかく聴く聴く聴く!」という傾聴の心がけを大切にしていただきたいなと思います。

②経営陣が会社のビジョンを伝える

2つ目は、可能な限り経営陣に協力を仰ぎ、将来の会社のビジョンや今後どのような事業展開を考えているのかを、直接語っていただく方法です。先にお伝えしたように、若手のエース社員が辞める理由の多くは成長予感の不足です。『このまま会社にいて、「自分がなりたい自分」になれるのか?』と疑問を感じ、辞める意思を固めた経緯があります。成長予感の不足を解消するには、「会社が今後どこを目指し、何を実現していきたいのか」を共有する必要があります。会社と若手のエース社員の目指す方向がマッチすれば、「実は知らなかっただけで、この会社でも成長していけるんだ」と成長予感を実感し、心変わりする場合があります。

また、若手のエース社員のなかで、成長予感が不足しながらも自身のビジョンは不明確になってるケースがあります。その場合には会社のビジョンを伝えながら、本人のビジョンも明確にしたうえで、「会社のビジョンとあなたのビジョンは、実はこの部分が重なってるから、まずそこからやってみよう」といった説得の仕方も可能かもしれません。

③「ポジティブ離職」で送り出す

最後は、どうしても離職を止められない場合には「ポジティブ離職」で気持ちよく送り出す方法です。これは直接的な離職対策ではなく、間接的に会社にとってメリットとなる得る方法です。私たちは、離職後に会社へポジティブ・ネガティブどちらの感情を持つかによって「ポジティブ離職」または「ネガティブ離職」と呼び分けています。会社に良い感情を持って離職する「ポジティブ離職」の場合、その後会社にとってのメリットに繋がるケースがあります。

ポジティブ離職で送り出すと、例えば企業の評判口コミサイトへのネガティブな投稿を控えるといった効果があります。また、優秀な社員の知り合いというのは優秀な方の可能性が高いため、知り合いの優秀な人材を紹介してくれるケースもあります。直接の紹介以外でも、偶然若手のエース社員の知り合いが偶然求人の応募を検討し、実情を尋ねた際、「自分は辞めたけど、すごく良い会社だったよ」と答えるのか、「いや、ちょっとあの会社辞めた方がいいよ」と答えるのかによって大きく印象が変わります。いずれのケースでも、会社の人材採用に影響を与えます。

最近、「アルムナイ」と呼ばれる自社の離職者コミュニティを運営し、離職後の継続したコミュニケーションへ繋げる企業も多くあるほどです。離職後も定期的に連絡をとり、情報交換や会食に行うことで、場合によっては優秀な社員が出戻ってくるかもしれませんし、誰かを紹介してくれることもあるかもしれません。離職を防げなかったとしても、結果的にポジティブ離職となるよう会社として対応することを私たちはおすすめしています。

若手のエース社員の離職対策に必要なのは、日頃からの信頼関係

エース社員が突然辞めると言ってきた際、上司や人事の方々は必死に説得しようとしてしまう場合が多いのですが、若手のエース社員にとっては意味がないばかりか、会社に対してネガティブな印象が強まり「ネガティブ離職」へと繋がりかねません。

上司や人事の方々が取るべき対策を簡潔に言うと、「話を聴く→本音を引き出す→最後は気持ちよく送り出してあげる」という順番になります。大事なのは、なぜ辞めようと思ったのか、「まず聴く」ということです。最初は本音を言ってくれない可能性もありますが、その場合に「本音じゃないでしょ?」とツッコミを入れるのではなく、傾聴の姿勢を忘れずにいましょう。コミュニケーションを重ねて、それでも離職の決心が固いままの場合には、ポジティブ離職となるよう気持ちよく送り出してあげることが大切になります。

今回お伝えした若手のエース社員への離職対策を行うには、本人との信頼関係がないと難しいでしょう。上司や人事の方々には、日頃からのコミュニケーションによる信頼関係作りを大切にしていただいたうえで、仮に若手のエース社員が辞めたいと言ってきた場合には、再び気持ちよく働いてもらえる日が来ることを目指して対策を実施してみてください。