大槻さんと出会ったのは、2016年の夏、経営者勉強会の懇親会でのことでした。そのときから活動内容が気になっていたので、今回思い切ってインタビューをお願いしたところ快諾いただけました。
正直、最初に「そうじを通じて風土改革」と聞いたときは「そうじすることで心がきれいになる」みたいな、話なのかなぁと思っていたのですが、大槻さんと話していると、ちょっとそういうことではないらしいぞと感じて、今回のインタビューに至りました。
本記事の要約
そうじの力はどんなことをしている会社なんですか?
株式会社そうじの力は、毎月1回など定期的に企業を訪問し、整理・整頓・清掃などの、いわゆる3S(環境整備)の活動を支援しています。一緒にそうじなどの清掃活動をすることもありますし、ミーティングに参加することもあります。基本的には1年契約をベースにしていますが、長いお客さんになると数年間に渡ってご契約いただいているケースもあります。
私が一番大切にしているのは、「社長と社員が一緒になって環境整備活動に取り組むこと」です。私たちの目的は会社の社風をよくすることですが、そのためには社員が社長に言いたいことを言えることが大切だと思います。社内のそうじは、普段思っているけどなかなか言えないことを言うためのきっかけづくりだと思っています。
例えば、社内に昔から置いてある、使っていない資材があったとします。普段からみんな「あれ、いらないよね」と思っているけど言い出せない。そんなときに、全社員でそうじをすることで「この資材って本当に必要なの?」「必要か不要か判断できるひとは誰なの?」などを社員間で話し合ってもらいます。小さなことかもしれないけど、そうやって普段は言えない心の中のことを「モノ」を仲介して言葉にして相手に伝えることが社風を良くする第一歩になります。いきなり「ヒト」に対して本音は言えなくても、「これっていらなくない?」ということを「モノ」に対してなら言いやすいですから。
風土改革での3つの壁
言われてみれば、どんな会社でも「なんでこんなものがこんなところにあるの?」と思うモノが1つや2つは必ずありました。コンサルティング会社にいたときも、商社にいたときも、ベンチャーにいたときも、企業規模は違っても必ず「なぜかそこにあるモノ」は自然と会社の中に存在していた気がします。とはいえ、社風改革が簡単ではありません。そうじの力での経験から社風を良くするためにネックになる部分についても聞きました。
ネックというか、活動の壁になっているものは3つあります。
第一は「社長の壁」です。
社長がそうじの活動のリーダーシップをとってくれるかどうか、時間をつくってくれるかどうかがポイントです。社長があまりやる気になっていないと活動を推進するのが難しいケースもあります。過去にも社員さんがやる気になっているけど、社長が乗り気ではないということもありました。
第二は「日々の活動の壁」です。
私たちがお手伝いできるのは月に1回~2回。それ以外の日々の活動の中でそうじの活動を継続できるかどうかです。これは第一の壁ともつながりますが、社長や上司が強引にでも業務の中で時間をつくってくれるかどうかが重要です。みなさん忙しい中で、普段の業務にプラスして実施するとなると負担感も大きいですから。
第三は「継続の壁」です。
「日々の活動」ともつながるのですが、突発的にやるのではなく継続的に行い「習慣化」できるかどうかが重要です。イベント的に行うのではなく、継続的に行う必要があります。例えば1日に10分とか、場所が広いなら、月曜日は本棚、火曜日はデスク周りとかルールを決めるだけでも継続しやすくなります。あとは一人ひとりの個人の取組みではなくて、会社全体とかグループでの取組みにすることも大切です。
始めることよりも継続する方が難しいというのは、私も日々感じています。
最初はみんな盛り上がっていても、放っておくと段々とエネルギー感が下がってきてしまいます。特にそうじのように「ちょっと面倒だな」と感じる人がいる内容の場合はなおさらだと思います。そんな中でも、大槻さんがこれまでうまくいったエピソードも教えてくれました。
モノを通じて対話を生み出すのが「そうじの力」
そうじの活動を始めて10か月目くらいの会社でのことです。今までは毎月何をやるのか、こちらから提案していたのが、ある時、先方から「今日はこれやろうと思います。」と言ってきてくれました。
その時は会社の前にごみを捨てる人が通行人の人が多いので、そこに花壇をつくろうということでした。社長は「それなら友人の庭師に頼んでみるよ」と言ったのに対して社員の方から「社長、この活動はみんなでやることに意味があるんですよ。庭師に頼んでキレイな花壇をつくるのが目的じゃないんです。」と言っていたのを聞いて、この活動をやっていた良かったなと感じました。
もう一つオーナー企業の会長と社長の親子の個別サポートをしたときのことです。
会長は昔の資料などをコレクター的に残しておく人だったのです、社長とともに整理して不要なものは捨ててもらいました。そのあと、社長から私に「今までは会長がなんであんなにものを取っておくのか理解できなかったけど、今回一緒に捨ててみて、あれは会長なりの親心だったということがわかりました。口では言わなけど『この資料は経営の参考になるぞ』ということだったんだと思います」と言ってきてくれました。
それからしばらくして、会長と社長の机の間にあったパーテーションがなくなり、社員の方からも「最近、会長と社長が前よりも話すようになった」という報告もいただきました。
私が目指すのは会社で働く人が、言いたいことを言えて、それをお互いに聞ける状態になっていることです。お互いを理解することはできないかもしれないけど、相手の言っていることをまずは受け入れて聞くということはできると思っています。
理解しあえないことを理解することからのスタートが大切
経営者がそうじをすることを推奨している会社や経営者の勉強会などは少なくないと思います。私の知る限り、中小企業の経営者勉強会では推奨しているケースの方が多いくらいです。ただ、大槻さんほど「経営者と従業員が一緒にそうじすること」を大切にしている人は少ないです。そして何より「なぜ、そうじなのか」をこれだけ説得力をもって話せる人はいないと思います。
なにより大槻さんと話していて印象的なのは「お互いを理解することはできないけど」という言葉。私も人間がお互いに理解し合うというのはものすごくハードルが高いと思っています。考え方が違うんだから理解しえあえない、だからこそ話し合って、言いたいことを言い合うことが重要なのです。大槻さんの話に説得力があったのは、「お互いは理解できない」という前提が無意識のうちに共有できていからなのかもしれません。
やっていることは違いますが、私も会社で働く人の働きがいづくりを支援する仕事をしている立場として、大槻さんの考えと実践は大変参考になりました。
今回、思い切ってインタビューした内容を記事にしたのは自分にとっても学びが多くありました。これから不定期に続けていこうと思います。
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