人手不足でもSNS活用で採用勝者になれる時代 -SNS採用で企業が知っておきたい注意点-  (前編)

株式会社カイラボ

“SNS採用のコツを徹底的に聞きました”

2019年は人手不足倒産が過去最多になりました。多くの企業が人材採用に苦戦していますが、そんな中でも優秀な人材をしっかりと確保している企業はあります。知名度がなくても、業績が凄くいいわけでもなくSNSをうまく活用することでコストをかけずに採用を実現している会社もあります。

今回のゲストは、20年以上のHR領域での経験を活かし採用コンサルティングを手がける松本淳さん。

TwitterなどのSNS運用で実績を出している松本さんを見習って、後に続く人が多くいます。 前半では、どのようにしてSNS運用の重要性に気づいたのかをじっくりと伺いました。

ゲスト紹介

インタビュアー紹介

井上 洋市朗

株式会社カイラボ 代表取締役

2008年 株式会社日本能率協会コンサルティングへ入社し、大手企業の業務改善などに従事。その後、社会人教育のベンチャー企業などを経て2012年3月に株式会社カイラボを設立。

2013年に新卒入社後3年以内で会社を辞めた早期離職者100人へのインタビューをまとめた「早期離職白書2013」を発行。

早期離職の実態と対策に関するコンサルティングのほか、セミナーや研修を全国で実施。現在は高校生や大学生向けのキャリア教育の授業にも登壇し、年間100件以上のセミナーや研修などを行っている。

人材紹介業の営業から人材業界で起業

井上:まずは松本さんの経歴と経験をお聞きしてもよろしいでしょうか。

松本:私は大学を卒業して、1997年にインテリジェンス(現パーソルキャリア)に入りました。

当時まだベンチャー企業だったインテリジェンスは、社員数が70名ほどいまして、私が入った時期は人材紹介業を立ち上げる年でした。
会社が人材派遣業に乗り出す時期に、事業企画に配属希望を出して、希望通りに事業企画に配属されて、何もない状態からスタートしました。
僕が5年間いた人材紹介業では、営業をはじめ何でもやっていました。システム設計担当として要件定義のトップやwebマーケティングのマネージャーも経験があります。

その後、自分で起業をして、設立3年目くらいにはIPOを目指そうと頑張っていましたが、自分のキャパ不足もありまして、最終的には2008年にリクルートに売却しました。

売却後はHR系事業のコンサルティングを続けています。

営業をしても門前払い、紙の時代の訴求の仕方を模索して独立へ

井上:もともとは人材紹介業の営業からキャリアをスタートしているんですね。

松本:はい。最初は人材紹介業の飛び込み営業でした。僕の配属先は金融業界グループで、1997年や1998年は日系の金融機関は絶対に中途採用しない時代でしたので、外資系の金融機関に営業するしかなかったんです。

僕には全く知識がないし先輩もいないですから、ゴールドマンサックスに営業電話をして、相手にされなくて怒られて会社に帰る感じでしたね。

井上:すごい経験ですね。その後にwebマーケティングのマネージャーをしていたときは、企業からの求人や求職者を集める業務もやっていたのでしょうか?

松本:主に求職者を集める業務ですね。企業からの求人を集めることもありますが、基本的には求職者をどう獲得するかといった求職者支援を担当していました。
インターネットが一般的になる前の時代だったので、リクルートが作っていた中途採用専門誌「B-ing」みたいに、雑誌にハガキをつけて応募者が書いて返答してもらう作業を、全部webに変えるために試行錯誤しながら、訴求をバナー広告にしたりなどの工夫をしていました。

井上:松本さんが独立された2003年くらいは、皆がインターネットを使い始める時期ですよね。

松本:そうですね。

ITバブルが起きた2000年くらい、第1次ネットバブル崩壊が起きたのが2002年頃までだったので、独立にはちょうど良いタイミングでしたね。
ITバブルが弾けそうなときに独立の準備をしていまして、僕は今やりたくても周りの人には「この時期に始めるのか?」と言われていました。 たまたま僕が独立したタイミングで景気が上向いてきて、リーマンショック手前まで景気の波には乗れたのはラッキーですよね。景気が悪い時に独立するのは勇気がいります。

インターネットによって就職・転職活動の情報収集の仕方が大きく変わる

井上:人材業界の採用に関する業務を20年されている中で、採用方法のトレンドの変成をお聞きしたいです。

松本:就職・転職活動に関する情報とその収集の仕方が多様化してきましたね。
インターネットがない時代の就職・転職だと、例えばリクルートが出している求人情報誌を見ることがトレンドでしたが、断片的な情報しか手に入りませんでした。
しかし、20年位前からインターネットが出てきて、検索すれば口コミサイトや企業ホームページを見て社内の情報を集めることができるようになります。
2000年代中盤あたりにmixiを台頭にSNSが流行り出して、求職者同士で会社の情報交換が始まり、現在に至っては企業の公式SNSを使った採用活動もあります。
だからこそ、会社の情報を色んなチャネルでブランドを意識しながら発信して、採用したい人に伝える戦略がすごく大事な気がしますよね。

企業の採用活動は自社サイトありきでSNSも使いこなすべき

井上:昔に比べるとチャネルもSNSの種類も色々ある時代です。チャネルごとの特徴は何があって、どこのチャネルに一番力をいれたらいいんでしょうか?

松本:一番に力を入れるべきなのは自社サイトですね。
求職者は会社のホームページを見て情報を集めるので、キラキラした怪しいサイトではなく、求職者側の目線に合わせたものを作りましょう。
あと、最近は自社サイトに社員の生の声を載せている企業が増えていますが、自社のSNSも同じトーンで発信して、どちらの情報にもつながりがある状態が非常に大事かなと。
自社サイトありきでSNSをどう使うのかが大切です。もちろんコスト、投資の基準、効果を考えた上で、一番効果が高くてできそうなところを自社に合うように見極めるのが大事ですね。

知らない人とつながる採用活動ではFacebookよりもTwitter運用が適している

井上:松本さんがTwitterでの発信に力を入れ始めた理由は何でしょうか?

松本:僕は10年くらいFacebookをやっていますが、Facebookはリアルの知り合いとの関係を温め続けるツールですから、人間関係が外に広がらないんです。
Facebookで知らない人から友達申請が来たら、怪しいと思うじゃないですか。

井上:私もFacebookは、対面で会ったことのある人しか承認しないです。

松本:採用活動は基本的に知らない人と繋がりますからね。Twitterは会ったことがない人でも関係なしにつながれる文化があって、むしろ知らない人とつながりたいニーズを満たすものです。だから、Twitterの拡散力は採用活動に向いていると思います。
あと、Twitterの特徴は、ユーザー層がFacebookと比べて20代から30代がメインです。まさに転職市場では一番欲しい層なので、一番ユーザーが多いという意味ではFacebookよりもTwitterの方が合っています。
僕の実感値だと、まともに就活している学生さんはだいたいTwitterのアカウント持ってますから、企業の情報を伝えられますよね。その点では、Twitterがしばらくは伸びるだろうと感じます。

更新のない企業アカウントは消して社員の個人アカウントで発信する

井上:企業のTwitterアカウントを見ると、フォロワー数も少なくて、1年くらい放置されている採用アカウントを見ることがありますが。やはり放置するのは良くないのでしょうか?

松本:求職者にTwitterを見てもらっても、更新されていなければマイナスイメージなので、やらないならアカウントを消したほうが良いですよね。Twitterにある企業の公式アカウントはもうほとんど見てもらえません。セミナー情報や会社についての一方的な情報発信になってしまっているからです。
今は社員の個人アカウントで会社のことを発信して成功しているケースを多く見かけます。。会社と個人についての情報発信の割合は、バランスの取り方が難しいですが、そうしないと成功しない実感がありますね。

井上:私の場合だとカイラボの公式アカウントじゃなくて「井上@カイラボ」みたいに、個人が見える情報発信した方がいいってことですよね。

松本:その方がはるかに良いですね。5倍、10倍くらいの効果が出ます。

社員が個人アカウントで会社について発信するときのポイント

井上:社員が個人アカウントで情報発信した方が良いと思っても、身バレが怖いだとか、個人に運用を任せたらコンプライアンス的に良くないからとかで、結局人事部長が検閲する企業も多いと思うんです。
社員が個人アカウントで発信するときに注意するポイントや、どのように運用をしたらいいかを教えてください。

松本:僕が知っている成功例に、あるベンチャー企業の事例があります。
社員同士の人間関係が近い規模の会社だと、Twitterで社長や上司に対して発言しているケースもあります。そうすることで、社内の雰囲気もわかります。発言の内容は自己責任で社員一人ひとりに任せている会社はうまくいっています。

一方、大企業は基本的にSNSを禁止している会社が多いです。ある大企業はブランド管理室がTwitterを監視していて、めったなことを言うとすぐに指摘が飛んでくるので、社員は発信が非常にやりづらいと。 監視側の気持ちも分かりますが、個人の発信を止めてしまうとTwitterの良さが死んでしまいます

時折厳しい目つきになりながらも、基本的には明るい雰囲気で対談は進みました。

炎上を怖がらずに気軽にやってみると成功しやすい

松本:僕は、企業がTwitter運用に対して誤解があると思っていて、Twitterだからと身構えすぎなんですよね。炎上なんて基本的にはしないし。ニュースなるから怖いんでしょって。
外部の情報発信として人事がインタビューを受けるときに、顔が出るのと同じ感覚ですよ。Twitterだからって、企業に情報を管理されているとか漏れるなんて思わなくても良いんじゃないか。

井上:とりあえず気軽にやってみればいいんじゃないかと。

松本:気軽にやってみた方が成功すると思います。社長が社員に「誰かTwitter運営してよ」ってひと声で頑張った結果、人事のアカウントが認知されたケースがあります。やっぱり、Twitterを運用する人にやる気があるかどうかが一番の差ですよ。

Twitterに投稿するネタがなければ、リツイートをしたり他の人に絡む

井上:SNSアカウントを作ったものの、更新が止まっちゃう企業さんはすごく多いと思うんです。更新が止まる理由は、業務量が多すぎることとネタがないなんて声をよく聴きます。あと、何を投稿したら良いかが分からないし、投稿しても反応がないので続けるのが辛いって気持ちがあるようでした。
採用活動の一環でTwitter発信をしたいけれども、ネタがないときはどうしたらいいでしょうか?

松本:ネタがなければツイートじゃなくて、リプライやリツイートをメインにやったらいいと思います。
単なる公式アカウントによるリツイートじゃなくて、一言添えて引用リツイートですね。例えば、有名人のリツイートをするとその方のフォロワーにも届くので、企業アカウントのフォロワーも増えるきっかけになります。ツイートしなきゃじゃなくて、コミュニケーションを増やすことです。
人材業界や他企業の人事と絡んだり、なんなら求職者と絡んでもいいと思います。

井上:情報発信のために、「1日30ツイート」とかの目標を決めて発信する人もいますもんね。

松本:ツイートが修行になっちゃうと辛いんで、他のアカウントと会話をしに行くスタンスくらいがいいと思います。仲の良い人が増えるとそれに比例してフォロワーも増えていきます。まずは、自社の周辺にいるフォロワーさんと会話をしに行くのがオススメです。

井上:話す内容がなければどんどん絡みにいって、学生さんが面白いことをやっていたら「うちに入ってほしいな~~」なんて、つぶやくのも良いんですね。

社員一人一人がSNSアカウントを持って、複数人で企業の内部を開放する

井上:最初は、すごい人達(インフルエンサー)をうまく利用しながら運営するのが良いんですね。その上で個人アカウントの認知が広がったら、発信で工夫するポイントは何がありますか?

松本:最強なのは、複数アカウントで運用することなんですよ。社員一人で個人アカウントを運営するのは、会社の看板をずっと背負わなきゃいけないから結構辛いんですよね。
僕の知っている事例だと社長を筆頭に、役員、マネージャー、メンバーのほぼ全員がTwitterをやってる会社があって。メンバーが朝に「今日、偏頭痛がする」とツイートしたら、上司が「今日、君は来なくていい!」ってリプライを飛ばすんですよ。それって、会社外のフォロワーから見ても良い会社に見えるのではないでしょうか。
社員しか見られないslackではなく、透明性のあるTwitterでやるのに意義があります。

井上:求人票に「アットホームな会社です」と書いてあると胡散臭いですが、Twitterでアットホームさが見えれば、本当に社員を大事にしている会社だと分かるということですね。前半では松本さんにTwitter運用についてお聞きしました。後半も宜しくお願いします。

(後半に続く)