上司による誘導尋問型問いかけは 社員のモチベーション低下を招く

代表取締役 井上洋市朗

 

「最近の若い人には一方的な意見の押し付けはダメ、問いかけが大事」

なんとなくそんな気がする方は多いのではないでしょうか?

確かに問いかけは大切です。ただ、企業で管理職研修などをしていると、問いかけといいながら結局は管理職側が準備した「望ましいこたえ」を言わせるための誘導尋問型問いかけを頻繁に見かけます。

 

 

 

 

誘導尋問型問いかけとは?

 

誘導尋問型問いかけとは、問いかけをしているように見せかけながら、問いかける側に「このこたえを言わせよう」という意図があり、意図と違うこたえは否定したり、さらに問いかけをしたりしながら、最終的には事前に意図したこたえを言わせる方法です。

 

誘導尋問型問いかけの事例をいくつか紹介します。

 

上司  「今月のテレアポ獲得目標は達成できたのか?」

部下  「できてません」

上司  「なぜできなかったんだ?」

部下  「頑張りが足りませんでした」

上司  「具体的に何を頑張るんだ?」

部下  「テレアポ100本かけます。」

上司  「自分でやるって言ったんだから、やれるな。」

部下  「はい、頑張ります。」

 

このケースの場合、自分で「テレアポ100件やります」という目標を言わせることが上司側の意図です。上司は本当に100本できるとは思っていなくても、本人の口から目標を言わせたという証拠を残したいのです。

 

また、こんなケースもあります。最初の問いかけでは意図したのと違うこたえが返ってきたので、その考えを否定して強引に上司側の意図の寄せる方法です。

 

上司  「今期の目標達成率は?」

部下  「50%です」

上司  「100%は達成できるのか?」

部下  「難しいです」

上司  「難しいじゃない。目標は達成しなければ意味がないんだ。」

部下  「はい、頑張ります。」

 

部下側からすれば「頑張ります」と宣言をしない限り、終わらないのがわかっているので、早く終わらせたいという思いかとりあえず「頑張ります」と言っていますが、本心では「できない」と思っています。

 

部下に目標を言わせることが目的になっていないか?

 

誘導尋問型問いかけは、上司にとっては本人の口から決意表明に近い言葉を言わせたことで「言質をとった」と得意げになるかもしれません。とはいえ、本人が決意表明的な言葉を言ったから行動が改善するとは限りません。本人の中に納得感がなければ一時的な行動の改善があったとしても長続きはしないでしょう。むしろ「また、無理やり言わされた」と思ってモチベーションが下がってしまうかもしれません。

 

企業研修などで管理職の方向けに、部下との面談のロールプレイをしてもらうことがありますが、高い割合で誘導尋問型問いかけを行う方を見かけます。特に、ご自身はプレイヤーとして優秀で結果を残してきたタイプの方に誘導尋問型問いかけをする方が多い印象があります。

 

問いかけは大切ですし、本人の口から決意表明をしてもらうことも大切です。ただ、それは本人が納得して行動を改善するための手段でしかありません。問いかけすることが目的でもなければ、決意表明させることが目的でもありません。

 

新人や部下に対して「成長意欲がない」と感じてしまう原因

 

私たちが早期離職防止のお手伝いに入る企業様の中には、当初「うちの社員は成長意欲がない」「社員の目標達成意欲が低い」とおっしゃる方もいます。ただ、内情を見ていくと誘導尋問型問いかけが蔓延していて、部下の側は目標を言わされているだけで本人には腹落ちしていないというケースもあります。腹落ちしていない目標では達成意欲が湧かないのも当然です。

事前にある程度想定問答をして誘導尋問に近い形のコミュニケーションになることはあるかもしれません。大切なのは、誘導尋問かどうかよりも、最後に部下が言った言葉が本人が腹落ちして本心から言っているかどうかなのです。

 

誘導尋問ではなく、腹落ちする問いかけが大切

無意識に誘導尋問をしてしまう管理職の方は、相手の腹落ち感を大切にしてください。

詳しくはこちらの記事にフィードバックのポイントも整理していますので、是非参考にしてみてください。

OJTにも効果的!新人に「振り返り」を促すフィードバックのポイントをご紹介

 

人間は、他人に言わされた目標はすぐに忘れてしまいますが、自分が本当に納得して決めた目標は覚えているものです。管理職の役割は目標を言わせることではなく、目標を腹落ちさせることだと認識して、部下の管理を心がけてみてください。