若手社員の定着率をあげるためのポイントは大きく分けて3つ。「採用」「新人育成」「育成担当者の育成」です。

この中で「育成担当者の育成」は多く企業でまだまだ十分ではないと思います。

 

多くの企業で“育成担当者の育成”がないがしろにされてきた

私は毎年、大手製造業のZ社で育成担当者向けの研修を担当しています。Z社はバブル崩壊やリーマンショックの際に新卒採用を大きく減らした影響で社内の人口構造が非常にいびつになっており、今年の新入社員が10年ぶりの新卒という部署もあります。そのため、育成担当になる30代の社員にとっても初めての育成担当であり、新人育成と言っても具体的に何をしたらいいかわからないという状態です。

 

このように、大手企業でも企業の人口構成などが関係して育成担当者の育成は充分に行われていないケースも少なくありません。

 

人事部は育成担当者へ「期待と役割」を伝えられているか?

「研修では人材育成はできない。現場の仕事は現場でしか覚えられない」という考えの方は少なくないと思います。私も企業研修の仕事をしていますが、この考え方は半分以上正しいと思います。研修だけで得られる知識やスキルには限界があります。現場で活かせる能力を身に付けるのは現場で仕事をしてみるのが一番です。

 

人事としては「現場で力を身に付けてもらうのだから、新卒研修が終わったあとは現場のOJT担当がしっかり育ててほしい」と思う方が出てくるのも当然です。

 

人事の方にお願いしたいのは、育成担当者への「期待と役割」をしっかりと伝えていただきたいのです。OJT担当者研修、メンター研修、チューター研修など名前は会社によって様々ですが、育成担当者に指名されて方が自分自身の役割を最初から明確に理解しているケースは稀です。人によって解釈が違います。

 

人事としては「メンターとして新人の公私の悩み相談をのる」ことを期待しているのに、メンターは「担当の新人を鍛えて新人賞をとらせるのが目標」と言っている場合もあります。逆に、育成担当者として育成目標の設定も期待されているのに「目標を決めるのは上司の仕事で自分は仕事の手順を教えればいい」と思っているケースもあります。

 

人事から育成担当者への期待と役割はメールや書面で伝えただけではなかなか伝わりません。場合によっては人事と育成担当者が1対1で面談をしながら具体的な行動レベルまで期待と役割を伝えることも必要です。

 

育成をするのは育成担当者だけでない。職場全体、全部門、全社で行う。

「育成担当者がパンクして休職しました。」

最近ではそんな話を聞くこともあります。はじめての育成担当ということで張り切ったものの、通常業務に加えて育成担当の業務は当然負荷が大きくなります。周囲に相談しようにも「あなたが育成担当なんだからしっかり育てなさい」「育成担当が弱音言っていてどうする」などと言われ誰にも相談できずについにはパンクしてしまうのです。

 

育成担当者がメインで新人育成を担当するのは当然ですが、育成担当者がすべてを担うわけではありません。新人と育成担当者の相性がどうしてもうまくいかないこともありますし、突発的なアクシデントなどにより育成担当者の業務が逼迫することもあり得ます。そんなときに大切なのは育成担当者以外の方が適宜サポートに入ることです。公式の育成担当者ではないけど趣味が新人と同じだからなんとなく仲の良い先輩の方がサポートしやすいタイミングもあるかもしれません。

 

職場全体や全社でうまくサポートするために重要なのが育成計画や新人に対する所見の共有です。定期的に新人の育成状況を共有しておくことで、必要なタイミングで職場の人なら誰でもサポートに入れる状態をつくっておくことが重要です。

 

 

育成担当者の成長は組織にとっても大きな成長

学習の定着率が一番高いのは人に教えたときだと言われています。

仕事においてもやり方を教わるだけではなく、自分が教えることで初めて気づくことも多いと思います。人を育てられる人材がいることは、それだけで組織にとっての大きな強みです。

若手社員の定着率や成長度合いに悩んでいる会社ほど、育成担当者の育成に力をいれるべきなのです。