新入社員の離職対策のために、皆さんの会社ではどのような対策を打っているでしょうか? 私たちカイラボでは、これまで早期離職をした方を対象に300人以上の方にインタビューやアンケートを行い、『早期離職白書』にまとめてきました。
今回は、そのインタビューから見えてきた早期離職者の傾向や離職の理由やきっかけをお伝えしながら、具体的な対策や考え方について解説していきます。
本記事の要約
最近の若者だから、3年以内で辞めるわけではない
早期離職対策を考える際に、前提として共有したい非常に大切なことがあります。「最近の若者だから、3年以内で辞めるわけではない」ということです。
こちらの図は、厚生労働省が毎年発表している大卒者の3年以内の離職率の推移をグラフ化したものです。
上記の図からもわかるように、大卒新卒者の早期離職率は、おおよそ30%以上の水準で推移しており、大きく変化はしていません。また、最近数年よりも10年前の2000年代前半の方が早期離職率が高かったことがデータから読み取れます。
次に高卒者の3年以内の離職率を見てみましょう。
グラフの形から、大卒者と同じく早期離職率も大きな変化はなく、おおよそ40%前後の水準で推移してます。また、高卒者に関しては離職率は下降傾向にあり、数年前より辞めなくなってきています。
昔は、早期離職率は中卒で7割、高卒で5割、大卒で3割であったことから、早期離職について「七・五・三現象」と表現していましたが、現在は高卒者に関しては5割ではなく、現在では4割まで下がっています。
新入社員が辞める最大の理由は会社に魅力がないから
人事担当や管理職の方で、早期離職する若者が増える原因として
・最近の若者だから
・時代の変化が激しいから
などを挙げる方がいます。しかし、厚生労働省のデータを見る限りでは早期離職率は、ここ数年で大きな変化がありません。
つまり、もし会社の若い新入社員の離職率が高くなっているとしたら、
「若い人たちにとって魅力のない会社になっている」
ことが原因かもしれません。
業種別の早期離職率
次に、業種別の早期離職率をみていきましょう
厚生労働省が発表したデータによると、業種別で早期離職率(大卒新卒者の3年以内離職率)上位3つは以下の通りです。(「その他の業種」を除く)
1位:宿泊業・飲食サービス業(50.4%)
2位:生活関連サービス業・娯楽業(46.6%)
3位:教育・学習支援業(45.9%)
宿泊業・飲食サービスでは、約半数が3年以内に辞めることがわかります。また、意外に思われるかもしれませんが、学習塾の先生などの教育・学習支援業も離職率が高い業界の一つです。
自社の離職率と業界別の離職率を比較してみましょう
業界別でも離職率は大きな差があります。
そのため、自社の離職率が3割前後だったとしても業界別の離職率と比べると意外と高くなっていることもあるかもしれません。
大卒・高卒の離職率との比較だけではなく、業界別の離職率との比較も是非やってみてください。
社員数別の3年以内の離職率
最後に「社員数別(事業所規模別)の3年以内の離職率」についてもお伝えします。
社員数別の離職率は「社員が多ければ多いほど離職率は低い」傾向があります。
社員数が少ない会社よりも1000人以上のような社員数が多い会社の方が圧倒的に辞めにくくなっています。
社員数別でも早期離職率の違いがありますので、自社の社員数と比べて高いか低いのかを調べてみてください。こちらも厚生労働省のWebサイトから詳細を見ることができます。
3年以内で辞めた若者の生の声
ここからは、私たちカイラボが2013年から行っている早期離職した方へのインタビュー内容をお伝えしていきます。
事例①「先輩を見ても心の底からこうなりたいとまで思う人がいなかった」
青山学院大学卒 → 大手IT企業 →ITベンチャー 男性 Aさん
転職を考え始めたのは2年目の中ごろくらいからだったと思います。Y社はもともと中途社員が優秀だけど、新卒はあまり出世しない会社でした。
当時、自分の会社の30歳くらいの先輩を見ても心の底からこうなりたいとまで思う人がいないなと感じていて、加えてスタートアップベンチャーに行った友人なんかはマネージャーとか海外支社長になっている人もいるのに、自分は末端の営業という立場なのは、このままではマズイなと思い転職活動をはじめました。
自分は同期の中でも辞めたのは数人目でしたが、感覚としては優秀な人ほど先に辞めていた気がします。
(早期離職白書2016より 一部要約)
誰もが知っているような大手IT企業に新卒として入社したAさんですが、「先輩として憧れる、こうなりたいと思える先輩がいなかった」ことがきっかけで早期に会社を辞めて、転職した方の事例です。
事例②「会社に人として憧れるような人がいなかった」
法政大学卒→信用金庫→無職 男性 Bさん
もともと漠然と3年くらいしたら辞めようとは思っていました。成長できる会社という基準で選んでいたのものそのためです。
2年で辞めたのは、営業職を1年経験して会社、社会の仕組みや流れがある程度わかったからです。このまま3年目まで続けたとしても、ビジネススキル等は身に付くかもしれないけど、人としての魅力という面では成長できないように感じました。
会社の上司や先輩も仕事ができる人はたくさんいるけど、人として憧れるような人がいませんでした。プライベートは充実してないというか、人間としての幅が狭いなと思ったんです。飲み会に行っても仕事の愚痴ばかりで、この人たちとずっと一緒に働いていくのはイメージがつきませんでした 。
(早期離職白書2016より 一部要約)
信用金庫に新卒で入社したBさんですが、会社の中に
「人として憧れるような人がいない」
ことが離職のきっかけとなり、2年で退職しました。転職先が決まっていないまま退職したため、その後収入はゼロになりましたが、それでも早期離職した方の事例です。
事例③「会社のマニュアルで決まった売り方ではないから認められない」
筑波大学卒 → 外資系企業 → 外資系企業(海外駐在) 男性 Cさん
どれだけ成果を出しても、海外営業にはなかなか異動させてもらえませんでした。それなのに、自分より後に入ってきた新人が、少し成果を出した後あっという間に海外営業に異動させてもらっていたんです。
上司の言葉を信じて成果を出し続けているのに、なぜ自分との約束は守ってくれないのかと、会社に対して不信感が募りました。マネージャーからは「お前の営業は、会社のマニュアルで決まった売り方ではないから認められない」と言われました。
確かに自分の営業は自己流でしたが、それでクライアントが満足して成果に繋がっているし、マネージャーよりも営業成績は上。それで認められないのは理不尽だと思いました。
早期離職白書2013より 一部要約
Cさんは、筑波大学を卒業して外資系企業に新卒で入社しましたが、入社当初より「海外営業をしたい」という思いを持っていました。
海外営業に配属されるために、営業成績を上げてきたのですが、上司からは
「お前の営業は、会社のマニュアルで決まった売り方ではないから認められない」
と言われました。さらに、自分の後輩は海外営業に配属されていることにも理不尽さを感じ会社を辞めました。
離職後、元々語学堪能で営業成績も優秀だったこともあり、現在では外資系企業で海外駐在をしています。
事例④「辛すぎる社内環境の中、提供する商材に自信が持てなかった」
早稲田大学 → 大手証券会社 → フリーター 男性 Dさん
最初からずっと退職したかったですよ。僕は全然成果を上げられないダメ社員でした。売上ゼロだった月もあり、会社にとってはただの負債です。成績の悪い人間は上司から遠慮なく罵倒される環境で、僕は廊下を歩いているだけで「お前なに歩いてんだよ」と怒鳴られました。営業中に突然涙が止まらなくなり、親に泣きながら電話したことも何度もありました。
成果をあげたい気持ちはもちろんありましたが、提供する商材に自信が持てませんでした。契約が取れれば会社から褒められますが、契約後に商品の価格が軒並み下落して、お客さんが大損をする姿もたくさん見たんです。誰の役にも立てず、ただただ毎日怒られて、この環境にずっといたら頭がおかしくなると思っていました。
早期離職白書2013より 一部要約
Dさんは、早稲田大学の強豪運動部の出身で、大手の証券会社に入社しました。しかし、営業の成果が上げられなかったため、先輩社員からは毎日怒鳴られ、怒られる日々が続いていました。
また、自分が売っている証券もお客様が大損することもあり、良心の呵責を感じ仕事自体にもやりがいを感じることができなかったそうです。
メンタル的にもやられたこともあり、早期に証券会社を退職しました。
事例⑤「会社のスタンスには魅力を感じませんでした」
学習院大学卒→ベンチャー企業→編集プロダクション 女性 Eさん
マーケティング部署では、オウンドメディアの編集長をやらせてもらいました。記事を読んだ方からお問い合わせが来るように、記事の書き方や発信の仕方を考えることはとても面白かったです。どんどん仕事にのめりこみ、いつしか「記事制作や編集技術をもっと極めたい」と思うようになりました。
この会社でもライティングや編集はできますが、指導者はいないですし「少しでも安く多く記事を作ること」というスタンスには魅力を感じませんでした。
事業自体に価値はあると思うけど、私がやりたくなくなってしまったんですね。じっくり記事制作に取り組めて、ライティングや編集を指導してくれる人のいる環境に転職しようと決めました。
早期離職白書2019より 一部要約
仕事自体には面白さを感じていたEさんですが、E自分のスキルを高めていきたいという思いから編集プロダクションに転職しました。年収は大きく下がりましたが、それでも転職を決意されたそうです。
事例⑥「社内への女性のキャリアに限界を感じた」
早稲田大学卒→信用金庫→NPO職員 女性 Fさん
仕事はひたすら伝票を処理する毎日なんですが、その途中にふと「このまま東海地震が起きて死んだら、私は成仏できないなぁ」とふと思ったんです。
それと、憧れていた入社7年目の女性の先輩がいたのですが、仕事内容が高齢者への保険販売だったのをみて、「自分は将来、高齢者に保険を売りたいわけじゃないなぁ」と思いました。金融業界というのもあって、社内での女性キャリアの限界をなんとなく感じていました。
入社後に、男性と女性の出世コースや数年後の仕事の内容に違いがあることに気付きはじめました。社内の暗黙の了解として、男性であれば、成績次第では信用金庫の花形である企業融資の担当になれることがありますが、女性はどれほど優秀であっても企業融資の担当にはなれません。
もう一つ、辞めない理由がなかったというにもあります。唯一の辞めない理由が「親が悲しむかな」くらいだったので。
早期離職白書2016より 一部要約
親の意思もあって地元の信用金庫に就職したFさんですが、社内の文化に、女性としてのキャリアに限界をを感じ、NPO職員に転職をしました。転職したことでお給料は大きく下がったのですが、転職したことには全く後悔していないと話していました。
早期離職の三大要因
私たちカイラボでは、これまで300人以上の早期離職者の方へインタビューやアンケート調査をしてきた結果から、早期離職の三大要因として以下の3つを挙げています。
・存在承認
・貢献実感
・成長予感
それぞれの項目について、具体的な内容をご紹介します。
存在承認 |会社・職場において自分の存在が認められているかどうか
たとえば、
・人間関係が悪かったり、自分の成績や行いが評価されない場合
・パワハラ・セクハラを受けた場合
などに存在承認の不足に繋がります。存在承認とは、「社員にとって安全、かつ安心な職場であるか」ですので、安心して働けない職場環境であれば、存在承認が下がってしまい、早期離職のきっかけや原因になります。
貢献実感 =|社会・顧客・職場などに貢献できていると本人が感じているかどうか
「自社利益のための高額商品をお客様におすすめしなくてはいけない状況」ではお客様への貢献実感が不足します。また、お客様だけではなく、貢献実感は社会や職場に対しても感じていることが大切です。
貢献実感は「本人が実感できている」ことが非常に重要です。
貢献の話をすると、「企業として売り上げを伸ばし、税金をたくさん納めることが最大の社会貢献だ」という方がいますが、「会社が社会貢献していること」ことと「働いている本人が貢献実感を得られる」ことは別の問題です。
貢献実感は納めた税金の額などではなく、お客様から感謝されたり、職場でなにげない行いにお礼を言われたり、自分が仕事が社会の役に立っていることを実感することで感じることができます。
また、人それぞれ「誰に貢献すると、貢献実感が高まるのか」は違います。
お客様に感謝されることで実感できる方もいれば、職場の中で誰かの役に立っていることを感じ貢献実感を感じる方もいます。そのため、誰の役に立ることが貢献実感につながるのかを把握し、ひとりひとりの貢献実感を育むことが大切です。
成長予感 | 今の仕事を続けることで将来のなりたい自分になれる予感があるかどうか
成長予感は将来に対する予感です。
・先輩社員を見て、憧れる先輩がいない
・企業の成長スピードに不満を感じる
などの場合、成長予感が不足しているケースです。
私たちも企業の人事担当の方から
「優秀な若手社員が、3年以内に退職してしまい困っている」
という相談を受けることがありますが、特に優秀な若手社員ほど、成長予感の不足で早期離職する方が多いです。
色眼鏡で見ずに目の前の若手社員と向き合う
今回、データとともに早期離職者の生の声もご紹介しました。
早期離職の傾向はデータでわかりますが、その実態は一人ひとり違います。大切なことは、「最近の若者だからきっとこういう理由だろう」とか「あいつが辞めるのはきっとこんな理由に違いない」と決めつけることなく、