早期離職対策をしていると言うと、必ず「早期離職することは悪くない」と言ってくる人と出会います。同じように「最近は就職しても3年以内に3割が辞めてしまう。けしからん」と言う方と出会うこともあります。それぞれ、早期離職に対してはなんらかの思いがあるようですが、言っていることは正反対で、前者は私に対して高圧的な方が多く、後者は私を勝手に味方だと認識されている方が多いようです。
私はどんな意見の方に対しても「早期離職が良いか悪いかはわからない」とこたえています。事実として3年以内率の経年推移のデータを示したり、そのほかの統計データや調査結果から私の仮説をお伝えしたりするだけです。
SNSを見ていると、早期離職した人を「社会の常識にとらわれず、自己決定したヒーロー」のように扱う人たちがいる一方で、同じく早期離職した人を「社会に適合できなかった悪者」のように扱う人たちも見かけます。どちらも間違っていると思います。「早期離職者はヒーローでも悪者でもないですよ」と言いたくなります。
早期離職というのは一つの事実でしかなくて、それが良いことなのか悪いことなのかは人それぞれ違って当たり前です。また、今は「あれはいい判断だった」と思っていても、10年後には「なんであのとき辞めてしまったのか」と後悔している可能性もあります。もちろん逆の可能性も。
早期離職という事実を「良い」「悪い」という感情と結びつけてしまう人は自分の意見を社会前提に当てはめて思考停止状態になっていないでしょうか。
早期離職に限ったことではなくて、例えば、男性が育児休暇をとるのは良いか悪いか、起業するのが良いか悪いかなどの議論も同じだと思います。
最近では多様性のある社会や多様性のある働き方など「多様性」という言葉が頻繁に使われますが、多様性のある社会にするには、一つの事実に対する解釈が無数にあること、自分にとっては受け入れがたい、ときには理解できない解釈もあることを一人ひとりが理解する必要があるはずです。
早期離職という一つの事象をだけをとっても、自分が思っている「良い」「悪い」が手放せない人が多いので、まずは早期離職者をヒーローにも悪者にもせず、ただ単純に「3年以内で辞めた経験のある人」としてとらえてもらえるようにするのが、これからの活動の軸の一つになりそうです。