企業の人材不足にも関わる新入社員の早期離職問題ですが、問題視はしていても、

「なぜ、新入社員がすぐに辞めてしまうのか理由がわからない」
「早期離職を予防する、具体的な対策方法がわからない」

といった悩みが解消できず、予防・改善に取り組めない方も多いのではないでしょうか。

私たちカイラボは2012年より早期離職対策のコンサルティングサービスを提供しています。今回は、これまでの調査から得た知見をもとに、早期離職が起きる理由と対策方法をご紹介します。早期離職の理解を深めるとともに、対策方法立案の参考にしてみてください。

早期離職する理由は「存在承認」「貢献実感」「成長予感」の不足

はじめに、新入社員が早期離職する理由について説明します。
私たちは、これまで数多くの早期離職者インタビューや企業の早期離職防止コンサルティングを行う中で、早期離職が起こる理由は次の3ついずれかの不足によるものと考えています。

  • 存在承認
  • 貢献実感
  • 成長予感 

それぞれの項目について、具体的な内容をご紹介します。

1)存在承認 = 自分の存在や能力を、周囲が認めてくれているか

人間関係や評価が悪い場合、またパワハラ・セクハラを受けた場合などに存在承認の不足につながります。例えば、他の社員も同じような失敗をしても自分だけ強く叱責されるというケースが該当します。上司や同僚とのコミュニケーションのほかにも、定量的・定性的な評価も存在承認に含まれます。

2)貢献実感 = 自分の働きが、社会・社内・お客様の役に立っていると実感できるか

自分の仕事が誰かのためになっていると感じられないことは貢献実感の不足につながります。例えば、営業活動でお客様には求めていないのに、自社利益のための高額商品をおすすめしなくてはいけない状況ではお客様への貢献実感が不足します。他にも、自分の仕事が会社や周囲の人々に貢献していると感じられなかったり、会社のサービスが社会に貢献していないと感じるケースもあります。

3)成長予感 = 現在から未来に向けての成長に対する予感があるか

「今の会社にいたままではなりたい自分なれないのでは?」と不安に感じると、成長予感が不足します。例えば、強い成長意欲を持って入社した場合に、先輩社員を見て想像よりも優秀さを感じられない・企業の成長スピードに不満を感じるなど、自分の成長意欲が満たされないと成長予感の不足につながります。福利厚生が充実し労働環境も整備されている大企業にも関わらず優秀な社員が退職するケースに、成長予感が不足している傾向が多くあります。

私たちは以上の3つが早期離職の大きな理由と考えています。

「存在承認・貢献実感・成長予感」は完全に切り分けられるものではありません。ケースによって重なる部分があります。例えば、とある従業員が担当業務がない状況で「何かやることありますか?」と上司に聞いても「いや、とりあえずないよ」と言われた場合、存在承認と貢献実感の2つが不足することにつながります。

早期離職対策のスタート地点「採用」「育成」「定着」

ここからは早期離職の具体的な対策方法として、以下の5つをご紹介します。

  • 過去のデータから活躍する人物像を明らかにする
  • RJPで事前に仕事内容と本人の志向性のマッチングをはかる
  • 入社後の計画的な教育訓練
  • 管理監督者への教育
  • 「採用」「育成」「定着」の3つの観点から少しずつの改善

各対策についての詳細をご紹介します。

対策1.過去のデータから活躍する人物像を明らかにする

「自社で長期的に活躍する人材の共通点」を社員の採用時や入社後のデータから分析し、採用選考にその共通点を見つける仕組みを落とし込む方法です。
共通点を見つけるのに参考となる過去データとしては、例えば以下のようなものがあります。

・採用選考時の適性検査の結果
・面接の採点、面接官のコメント
・入社後の評価、成績
・360度評価の結果

上記項目から早期離職率との関係や昇進スピードなどを調べてみると、自社に合った面接や採用選考のやり方が浮かび上がってくるかもしれません。

採用時は「優秀な人を採用したい」「すぐに辞めてしまう人を見抜きたい」といった点に注意しがちですが、自社で活躍する要因を客観的に把握することが重要です。

対策2.RJPで事前に仕事内容と本人の志向性のマッチングをはかる

RJPとは、「現実的な仕事内容の事前開示(Realistic Job Preview )」と訳される採用理論で、求職者へ正確な自社情報を開示することで採用時点のミスマッチを防ぐ方法です。

RJPの実施タイミングは、つぎの2種類が考えられます。

1)企業説明会、採用面接

自社の長所や良い面だけでなく、従業員が現在困っていることや問題に感じていることを隠さずに伝えることで、求職者に自社の理解を深めてもらいます。

2)インターンシップなど就業体験プログラム

就業前の時期に実業務(またはシミュレーション)を通して、説明や文面だけではわからない仕事の大変さや社員とのコミュニケーションを体験してもらいます。このケースでは就業体験そのものを選考過程に入れている企業もあります。

対策3.入社後の計画的な教育訓練

採用後に「場当たり的な教育」にならないための方法です。私たちが実施した早期離職者へのインタビューで多く聞いたのが「短期間の研修のみで、すぐに現場に入った」という言葉です。なかには、企業側はOJT研修を取り入れている認識であっても、新入社員側はその認識がなく「現場に放り出された」と思っていたケースもありました。このような事態を避けるためにも、教育体制のポイントとして次の方法をご紹介します。

1)目標設定に沿った育成計画

新入社員にどのようなスキルやマインドをいつまでに身に付けてほしいか目標設定を行い、その目標の達成に向けた育成計画を立てましょう。

2)育成担当者の人選と教育

育成担当者の人選は、新入社員との相性や育成スキル、経験などを考慮しましょう。「手が空いているから」「同じ部署だから」「同性だから」といった理由で人選を決めている企業もありますが、うまくいかないケースが多々あります。

また、育成担当者には経営者や人事が育成に関するレクチ ャーをおこなうことをおすすめしています。育成担当者への教育が難しい場合は、育成担当者向けの外部研修を利用するという手段もあります。

3)育成対象との目標共有

育成対象となる新入社員にも目標を共有することが重要です。育成カリキュラムを通じて身につけてもらいたい内容やその理由などを説明することで、新入社員が納得して研修を受けるようにします。


対策4.管理監督者への教育

管理監督者とは育成担当者や管理職を指しますが、新入社員の教育に携わる方の育成力をスキルアップする方法です。管理監督者の育成力に多く見られる課題が、つぎの3つです。

1)目標設定力の低さ

具体的な育成目標を立てるために必要となるのが「目標設定力」です。育成目標が抽象的な内容にならないため、『SMART』と呼ばれる目標設定のフレームワークを利用すると良いでしょう。

次の通り、頭文字のポイントを踏まえることで、具体的な目標設定が可能になります。

S = 「 Specific (具体的に)」
M = 「 Measurable (測定可能な)」
A = 「 Achievable (達成可能な)」
R = 「 Related (経営目標に関連した)」
T = 「 Time bound(時間制約がある)」

2)指導の優先順位付けができない

先ほどの「目標設定力」にも関連しますが、目標があいまいなため指導内容もあいまいになるケースがあります。指導の優先順位を明確にするポイントは、新入社員が担当する業務プロセスを細かく紐解き、細分化することです。A、B、C、D・・・と細分化したなかで、つまづきやすいポイントや覚えるべき情報を教えるべき順番に整理するだけで、具体的な指導が可能になります。

3)コミュニケーションの引き出しの少なさ

「新入社員にどうやって声をかけていいのかわからない」と悩んでいる育成担当者や管理職に見受けられます。コミュニケーションのテクニックは数多くありますが、まずは「相手のことを知る」「自己開示をする」がポイントです。

新入社員のことを知らないし、若手社員に対して自分の情報も提供していないケースでは、まず相手のことを知ることから始めましょう。趣味、入社動機、学生時代の取組み、休日の過ごし方など、コミュニケーションのきっかけは多くあります。

対策5. 「採用」「育成」「定着」の3つの観点から少しずつの改善

ここまでご紹介した対策の総括にもなりますが、早期離職対策の観点には「採用」「育成」「定着」の3つの観点が必要であると私たちは考えています。いずれかひとつで劇的な効果が生まれるものではなく、また「これさえやっておけば良い」というものもありません。それぞれのフェーズで継続して取り組みを続けることが重要です。

これから早期離職の対策に取り組む方、またはさらなる改善に向けてこれからも取り組む方は、この観点をスタート地点にしてください。

早期離職対策は、企業も個人も幸せになれる環境づくりへの架け橋

早期離職の3つの理由とあわせて5つの対策方法をご紹介しました。まずは、すでにある体制やデータを活用し、実行にうつしやすい対策から取り組むのが良いでしょう。

私たちカイラボは、早期離職を改善することは企業だけでなく、働く個人の幸せにも寄与できると考えています。この記事がみなさんの早期離職対策実践の参考となり、企業も個人も幸せになるきかっけとなれば嬉しい限りです。