大卒新入社員の3年以内離職率 昔に比べて今の人は辞めやすい?それとも辞めにくい? 2022年秋発表

編集部

本記事は2022年発表のデータの解説です。2023年発表データ解説はこちらから。

2022年10月、大学新卒者の早期離職率が厚生労働省から発表されました。

「昔に比べて今の人は辞めやすい」とよく耳にしますが、果たして本当にそうなのでしょうか。

早期離職率を社会背景とともに詳しく分析することで、真相に迫ります。

 

この記事では、最新の大卒早期離職率のデータから過去30年間・20年間の早期離職率を比較し、その傾向を解説します。

2022年10月28日発表の早期離職率最新データ

2022年に発表された大卒新入社員の早期離職率(3年以内離職率)は、31.5%でした。

大卒での早期離職率は大体3割だといわれているので、31.5%はおおよそ妥当な数字でしょう。

次から、このデータが例年と比較するとどのくらいの水準にあたるのかをみていきましょう。

(この記事の内容は、こちらの動画でも解説しています。)

大学新卒者の3年以内離職率 推移

過去30年における早期離職率の推移をまとめたグラフがこちらです。

2022年に発表されたのは、もっとも右側にある2019年卒のデータになります。こちらには、2019年度に大学を卒業した人のうち、2020年4月〜2022年3月までに離職した人の割合が示されています。

つまり、2019年度大学新卒者の入社後3年以内離職率が、2022年の最新データ31.5%ということです。

では、大卒者早期離職率における過去の最低値と最高値から、今年の水準を考えてみましょう。

最低値にあたるのは、1992年卒の23.7%です。2019年卒の31.5%に比べて10ポイント近く低くなっていることから、かなり低い水準にあるのがわかります。

この1992年卒の離職率が低いのは、バブル崩壊の影響だといわれています。

就職した後にバブルが崩壊したため、その後の転職が難しくなったことで離職者が減り、離職率が減少したと考えられます。

このバブル崩壊後から、離職率は徐々に上昇傾向になります。2000年卒で一度高くなり、その後少し下がりますが、2004年卒で過去最高の36.6%になっています。

2000年卒から2005年卒ぐらいまでの世代は、いわゆる就職氷河期と呼ばれる時期に就職活動をしていた世代です。一方で、ITブームが起こった時代でもあります。

最初の就職で不本意な会社に入社したとしても、IT系の会社が第二新卒の採用に力を入れていたため、離職率が上がったのではないかといわれています。

その後、また離職率が減少しているのはリーマンショックの影響といわれています。さらにそこから少し増加してからは、数値は大体横ばいの傾向が続いています。

以上から、2019年卒の31.5%はほぼ例年通りの結果だったといえます。

離職率の変遷を過去30年間でみると最も低いのが1992年、最も高いのが2004年という結果になりました。では次に、直近の10年間で比較してみましょう。

過去10年間での早期離職率 低い順

過去10年間での早期離職率を低い順に1位から3位まで並べると、次のようになります。

  1. 2010年卒 31.0%
  2. 2018年卒 31.2%
  3. 2019年卒 31.5%

2位の2018年卒は、昨年2021年のデータです。そして今年2022年のデータである2019年卒が3位にあがっています。

1位の2010年卒31.0%は、リーマンショックによる影響です。

実はこの前年の2009年卒では、早期離職率が30%を切る水準でした。(11年前にあたるので今回は省略しました。)

このように、リーマンショックは離職率に非常に大きな影響を与えました。

2位・3位には、ここ直近の2年間がきています。これは、新型コロナウイルスによる感染拡大の影響が大きかったのではないかといわれています。

過去20年間に比較対象を広げ、このことをさらに詳しく掘り下げてみましょう。

過去20年間での早期離職率で見ても低い水準

過去20年間、つまり2000年以降において、2019年卒の早期離職率はどれほどの水準だったのでしょうか。

実は、6番目に低い水準にあたります。

2019年卒の早期離職率は、過去10年間においては3番目に低く、過去20年間でみても6番目に低い数値だったのです。

過去20年間における早期離職率の平均は、32.9%です。

最大値は先述した2004年卒の36.6%、最小値は2009年卒の28.8%となります。

実は、今回の2019年卒早期離職率31.5%は、過去20年間の平均よりも低い水準にあるのです。

この結果の背景に、コロナ禍の影響があるのではないかといわれています。

2020年4月〜2021年3月の離職が減少

それでは、このコロナ禍の影響は具体的にはどれくらい出ているのでしょうか。

コロナ禍の影響が最も大きかったのは、2020年4月から2021年3月までの期間と考えられます。

最初の緊急事態宣言が出されたのが2020年4月でしたが、その当時はかなり社会が混乱していました。

2020年に入社した新入社員の中には、入社後いきなり自宅待機1か月間を命じられた人もいたでしょう。また、就職活動についても終盤にあたる時期でしたが、面接を延期せざるを得なくなるなど、落ち着かなかった時期でした。

2022年の直近3年間は2017年卒・2018年卒・2019年卒のデータとして、入社1年目から3年目までそれぞれについて早期離職率のデータが厚生労働省から出ています。

まず1年目の離職率は、2017年卒・2018年卒・2019年卒のそれぞれで11.6%、11.6%、11.8%とほぼ同じ値であり、顕著な差はありません。

次に2年目では、2017年卒・2018年卒は11.4%と11.3%でほぼ同じ水準ですが、2019年卒は9.7%になり、なんと10%を割ってきています。これは、一体何が起きたのでしょうか。

実は、2019年卒の人たちはこの入社2年目に2020年4月〜2021年3月を迎えているのです。

つまり、この1年間の期間で辞めた人が減少した結果、2019年卒の離職率が減少したということです。

また、3年目の離職率でみると、2017年卒は9.9%、2019年卒は10.0%ですからほぼ同じ水準です。

一方で、2018年卒は8.3%ということで、他より若干低くなっています。ちなみに2018年卒の人は、入社3年目に2020年4月〜2021年3月を迎えています。

まとめると、コロナ禍の影響が強くあった2020年4月〜2021年3月は、2018年卒の入社3年目8.3%と2019年卒の入社2年目9.7%という、他より顕著に低い水準にある2つに当てはまるのです。

3年目離職率で比較すると、2018年卒の8.3%と2019年卒10.0%では1.7ポイント違います。

また、2年目離職率において2018年卒と2019年卒も11.3%と9.7%で1.6ポイント異なっています。

このように、コロナ禍の影響によって離職率が約1.6ポイントから1.7ポイント程度減少していると考えて、今度は3年間離職率で2017年卒の32.8%、2018年卒の31.2%、2019年卒の31.5%をそれぞれ比較してみましょう。

2017年卒と2018年卒では1.6ポイント、2017年卒と2019年卒では1.3ポイント異なります。

この結果から、実は離職する人の比率自体は、2018年卒・2019年卒も例年から2017年卒までとそれほど大きな差がなかったのではないかというのが私の仮説です。

2020年4月〜2021年の3月の間に離職する人が若干少なかった、その結果が歴代で見ても少し低い水準にまとまった理由になっているのではないでしょうか。

来年の2020年卒では、最初の入社1年目離職率が低い水準になる可能性はありますが、2年目・3年目の水準が例年と変わらなければ、今回の2018年卒・2019年卒の離職率とはそれほど大きな差は出ないのではないかと考えられます。

さらにその後の2021年卒以降になると、またどのような変化が出てくるのかはわかりません。この傾向でいけば、2017年卒と同じような水準に戻ってくる可能性もあるでしょう。

まとめ

今回は、最新の大卒早期離職率について解説しました。

最新2022年大卒(2019年卒)早期離職率は、31.5%でした。

こちらは、過去20年で比較しても過去で6番目に低い離職率になります。この低い水準の理由としては、2020年度(入社2年目)の離職率の低さが影響していると考えられます。

昔に比べて今の人は辞めやすいといわれていますが、今年の早期離職率の結果をみると例年とほぼ変わらないという結果になりました。最新の早期離職率に関して、詳しく知りたいという方はぜひご参考ください。