ベンチャー企業のなかには、自社のアピールポイントに「優秀な社員」が揃っていることを挙げる会社も少なくないと思います。しかし、もしその優秀な社員が辞めてしまったらどうでしょう?
企業として戦力的に、また対外的にも困ってしまうと思います。 私たちカイラボは2012年から早期離職対策のコンサルティングサービスを提供し、これまでさまざまな規模の企業への支援を行なってきました。
また、実際に早期離職された方へのインタビューやアンケートをまとめたデータ集「早期離職白書」を発行しています。 実はインタビューに答えてくれた方のなかには、2012-2013年あたりに早期離職したのち2019年現在ではベンチャー企業で役員をされているケースがあります。元の会社の方からすると、のちのちベンチャー企業の役員となるレベルの人材に辞められてしまったともいえます。
そこで、今回は優秀な社員の離職前に起こる兆候と、予防に役立つ対策方法をご紹介します。 なお、この記事では「早期離職する優秀な社員」を入社5年〜10年目ほどで評価・成績が良く、企業側も今後を担ってもらいたいと期待をかけている方と想定して書いています。
本記事の要約
優秀な社員の離職を予防するポイントは、「きっかけ」と「決め手」の見極め
離職前の兆候について触れる前に、早期離職に至るまでの「きっかけ」と「決め手」の違いを理解していただきたいと思います。
会社を辞めたいと思う「きっかけ」と、実際に退職を決断する「決め手」が違うケースは多くあります。人によっては「きっかけ」と「決め手」を自覚する時期がほぼ一緒という方もいますし、場合によっては「きっかけ」から1~2年、なかには10年ほど悩んだ末に「決め手」があり辞めるという方もいらっしゃいます。
優秀な社員の退職を予防するためには、退職を決断する「決め手」が見えてから対策をしてもほとんど手遅れです。そのため、対策を行うためには「きっかけ」がどこかを見極めることが重要になります。
私たちは「きっかけ」が来てしまった方が実際に退職するまでの期間を『モヤモヤ期』と呼んでいます。どういう方がこのモヤモヤ期に入ってしまうのか、モヤモヤ期にはどのような兆候があるか、しっかりと捉えていくことが大切です。
優秀な社員が辞めるときの兆候
優秀な社員が辞める際の兆候には、つぎの3つがあると私たちは考えています。
- 以前と比べてパフォーマンスが落ちてきた
- 急激にパフォーマンスが上がった
- 将来の展望を周囲に対して話さなくなった
それぞれの詳細をご紹介します。
兆候1.以前と比べてパフォーマンスが落ちてきた
わかりやすいのが「以前と比べてパフォーマンスが落ちてきた」場合です。退職するかどうか、モヤモヤして悩んでいるからこそ仕事に対して打ち込めていない可能性があります。
例えば、営業職の方であれば営業成績が落ちているかどうかが判断材料になると思います。営業のようにパフォーマンスが数字が表れる職種でない場合には、以下のようにアウトプットの量や質の比較が判断の参考になるのではないでしょうか。
・ルーティンワークのスピードが落ち、時間がかかっている
・会議での発言の質が落ちた
パフォーマンスが落ちてきた場合の対策方法は、その社員を「気にかけてあげる」ことです。面談や普段のちょっとしたコミュニケーションのなかで、本人が何か悩んでいないか、壁にぶつかっていないかを探ってあげるのが大切になります。
兆候2.急激にパフォーマンスが上がった
先ほどとは逆に、この1~2ヶ月に「急激にパフォーマンスが上がった」場合も兆候として表れる可能性があります。退職を考え始めている社員の場合、このまま今の会社にいてはまずいと思い転職に向けて実績を作るため、パフォーマンスが劇的に上がっているという可能性もありえます。
この場合の対策は、まずはその方のパフォーマンスが上がったことをしっかり認めたうえで、その裏側で「なぜ急な変化が起こったのか、何かきっかけがあったのか」を管理職や人事の方々はしっかりと把握しておくことが大切になります。
ただし、この兆候が見られたからといって、ストレートに「退職しようとしているんじゃないか」などと問いただすことはないように注意してください。このような変化が起こったとしても、純粋に仕事のコツを掴んだことでパフォーマンスが上がってきたというケースも当然ありえます。
また、会社に対してモヤモヤしていたものが吹っ切れた結果、パフォーマンスが上がった可能性もあります。そのケースではそのまま定着の方向に意志が向かう可能性も多いにありますので、やはりその背景を確認することがポイントになります。
兆候3.将来の展望を周囲に話さなくなった
3つ目の兆候が、「将来の展望を周囲に話さなくなった」場合です。将来の展望とは、次のように社内のポジションや携わりたい業務に関する内容です。
・「絶対に最速で昇進・昇格します」
・「◯年目までには××の部署に行きたいんです」
もともとこのような話をしない社員もいるとは思いますが、普段からある程度こういった話題を口にしていた方が全くしなくなった場合、会社に対して絶望していたり、会社にいても未来は見えないと思ってしまっている可能性があります。この兆候は、会社側にとっては現在の業務や部署に納得し、落ち着いて取り組んでいるという捉え方もできてしまうため、注意が必要です。
優秀な社員のネガティブ離職を防ぐことが重要
3つの兆候を紹介する前に、優秀な社員が辞める際の「きっかけ」と「決め手」は異なり、決め手が見えてしまうと退職を止めることは困難になるとお伝えしました。しかし、決め手まで至ってしまった社員に対して、このまま辞めてしまうのを待つだけでなく会社として何か対策を打ちたいというケースに、この方々に対して「ポジティブに辞めていく(ポジティブ離職)」ための働きかけ行うことを私たちは推奨しています。
私たちは離職をネガティブ離職・ポジティブ離職という2種類に分けて、それぞれ呼んでいます。ここでいうネガティブ・ポジティブとは離職原因を指すものでなく、辞めた会社に対してネガティブとポジティブどちらの感情を抱いているか?という観点で分けています。
良い感情を抱いたポジティブ離職の場合、優秀な社員が新卒入社であれば、例えば大学の後輩やゼミの後輩など同じく優秀層の知り合いを紹介してもらえるかもしれません。また、直接的な紹介でなくとも、離職後に優秀な社員が在籍していた企業への転職を志望した方が相談した際に、「自分は辞めたけど、とても良い会社だった」といってもらえるのか、「あそこはやめたほうがいい」と言われてしまうのかによって、ゆくゆくは採用活動や人材流入に影響してくるのではないでしょうか。
一番の効果的な対策は、日ごろから満足度を上げること
ここまでご紹介した優秀な社員が辞める兆候を、改めてまとめます。
1.以前と比べるとパフォーマンスが落ちてきた
2.急激にパフォーマンスが上がった
3.将来の展望を周囲に対して発信しなくなった話さなくなった
この3つを確認できたら、優秀な社員の離職を防ぐため会社としていち早く対策を打ち、しっかりフォローしなくてはいけないと捉えていただくと良いと思います。
ただ、先にも注意点として挙げましたが、兆候のなかには辞めようかとモヤモヤしているために表れたものでなく、別のきっかけによって単に良い方向として言動の変化に現れている可能性もあります。このような兆候が見受けられた=「この人は辞めるかもしれない」と、単純に結びつけることは危険なので気をつけましょう。
最後に、何よりも効果的な対策は「職場・仕事の満足度を高めてあげる」ことだと渡したちは考えています。退職に繋がる「きっかけ」を生み出さず社員の定着を高めるうえで非常に大切なことなので、日頃から心がけてください。