最近よく聞く「現状維持バイアス」
人材育成においては、人には現状維持バイアスがあるという前提を知っておくことが非常に重要です。
「現状維持バイアス」は人の無意識下にあり、プロスペクト理論にある「損失回避性」と「保有効果」などが大いに関係していると言われています。
今回は「現状維持バイアス」について、「損失回避性」と「保有効果」を絡めて解説しています。
こちらの記事はYouTubeにて動画解説もしております。ぜひ参考にしてみてください。
本記事の要約
「現状維持バイアス」とは
人は何かを変えようとする時、メリットよりもリスクを想定してしまい、結局「現状維持」を選択することが多いとされ、これを「現状維持バイアス」といいます。
すべての現状維持が悪い、ということではありませんが「現状維持バイアス」が強く働きすぎてしまうと、人と企業の成長を阻んでしまうと言われています。
変えた方が良いとは思いつつも、変えることで生じるリスクを恐れ、結局は「今のままでいいや」となり、現状維持が続いている。
そんな会社、実はとても多いです。
損失回避性と保有効果~プロスペクト理論~
「現状維持バイアス」を語る上で欠かせないのが、“プロスペクト理論”の「損失回避性」と「保有効果」です。
まずは、「損失回避性」と「保有効果」それぞれ解説します。
損失回避性
損失回避性とは、「人は何かを得ることよりも、損失を避けようとする」性質です。
たとえば以下の問題、皆さんはどちらを選択するでしょうか?
- (A)クジに当たれば100万円もらえる
- (B)10万円もらえる
この問題、多くの人が(B)を選びます。
確実に10万をもらえる(B)は「損失」にはなりませんが、(A)は当たらなければ0円。「0円=損失」 と捉えます。
そのため、確実に10万もらえる(B)を選択する傾向にあります。
しかし、「借金が100万円あったら」という条件が加わると違った結果になります。
この条件を入れると(A)を選ぶ人が多くなります。
100万円の借金があると(B)の10万円をもらったところで利益を得られた感覚は薄いですが、(A)はもし当たれば100万円。自分の借金をチャラに出来るチャンス!と考えます。
そのため、(B)を選択=100万円チャンスを逃した と捉え、(A)を選ぶ人が多くなります。
このように人は「損失回避性」を持っていることで、同じ条件下であっても、その時の状況に応じて物事を判断しているのです。
保有効果
“損失回避性”と似たような性質の「保有効果」は、「一度手にすると手にする前より価値を感じ、手放したくなくなる心理」の事をいいます。
これは、「手放す=損失」と感じるためです。
たとえば、ずっと着用してない服や、使用してない物に対して「いつか着るかもしれない」「いつか使うかもしれない」といった感情が湧いてしまい、なかなか捨てられないといったことはありませんか?
これも無意識に“保有効果”が働いてるからだと言えるでしょう。
「手放すことでのメリット」を他人がいくら説明したとしても、「手放すという行為が自体が苦痛」のため手放さない(=現状維持)のです。
組織改革が進まない理由の一つは「現状維持バイアス」
会社には様々な制度やルールが存在します。
たとえば
- 評価制度
- 部署編成
- 勤務体系
- 様々なルール
これらを変更・改革しようとする時、ほどんどの場合「得るもの(=メリット)」と「失うもの(=デメリット)」が出てきます。
先述した通り、人は「メリット」より「デメリット(リスク)」が気になる生き物です。
なかなかメリットはデメリットを超えられず、それが「現状維持バイアス」へと繋がります。
では、「メリット」と「デメリット(=リスク)」を「同等」と感じ、「やってもいいか」と思える比率はどれくらいなのか。
それは「損失回避倍率」で出されており、その倍率は「1.5倍~2.5倍」。
つまり、「メリット」が「デメリット(損失)」の約2倍以上ないと、「やってもいいか」と思うことが難しいとされています。
それほど人はリスクに敏感で恐れているということです。
その中で「現状維持バイアス」を意識した、たくさんのメリットを論理的に訴求をすることはとても大切で、実践している人もいるかと思います。しかしそれ以上に「リスク低減のアピール」も重要になってきます。
どれだけ沢山のメリットを説明しても、デメリット(リスク)が上回ってしまうのであれば、その「デメリット」を少しでも軽く、少なくすることが大切だと考えます。このように相手の無意識下にある「現状維持バイアス」を上手に利用し、説得をする際の1つの材料としてみるのも良いかもしれません。
まとめ
今回は「現状維持バイアス」と“損失回避性”と“保有効果”について解説しました。
「手放すのが怖い」「物が捨てられない」など誰もが経験したことのあるこの感情は、無意識下の「現状維持バイアス」によって引き起こされていました。
組織改革をはじめ、何かを変えるのは簡単ではないためつい「現状維持」をしてしまいがちですが、過度な「現状維持バイアス」は人や会社の成長を阻みます。
変えるべきところは変えて、会社がより良い方向に向くよう努める事は大変重要です。
組織改革やルール改定など、「何かを変えたい」について悩んでいる方の参考になれば幸いです。