時々、研修を行うのは意味がないのでは?といわれることがあります。
その根拠としてよく挙げられるのが、「ロミンガーの法則」です。
ロミンガーの法則では、人材育成に役立つ割合は実務が7割、薫陶が2割、研修が1割といわれています。
確かに研修は最も割合が低いのですが、本当に意味がないものなのでしょうか。
今回はロミンガーの法則から、研修の意義について解説していきます。
この記事の内容は、動画でも解説しています。あわせてご視聴ください。
本記事の要約
ロミンガーの法則とは
ロミンガーの法則とは、アメリカのロミンガー社の調査で、リーダーシップを学ぶのにあたり役立った事の割合からわかった法則です。
その内容は、実際の業務経験が70%、上司や先輩からの指導(薫陶)が20%、読書や研修から知識を得たというのが10%になります。
つまり、最もリーダーシップを学ぶのに役立ったのは実務経験だということです。
研修は読書と合わせて10%なので、研修のみで考えるともっと少ない割合になるでしょう。
この調査結果を受けて、研修は全く役に立たないものだという意見を持つ人もいます。
確かに人によっては、様々な研修を受けてきた中で、どの研修も全く役に立たなかったと感じたかもしれません。
しかし一方で、受けた研修によっては役に立ったものと役に立たなかったものの両方があったという人もいるでしょう。
研修はやっぱり無駄なの?
研修が実務の7割に比べて、役に立ったという比率が低いのは当然のことといえるでしょう。
そもそもリーダーになるために研修を受けている時間と、実務の時間ではどちらが長いでしょうか。
多くの場合で実務の時間の方が圧倒的に長いでしょうし、仮に研修と実務の時間が同じだったとしても、やはり実務から学べることの方が多いでしょう。
実際に自分が経験し、体験したからこそ得られる事は非常にたくさんあります。そのため、実務の方が比率が大きくなるのは当然なのです。
そのため、このロミンガーの法則は、ある意味ではとても健全な結果だともいえます。
ただし、このロミンガーの法則が何を示しているのかというと、業務の経験と指導・薫陶を受けること、読書や研修といういわゆるインプットのどれか一つに偏るのではなく、それぞれのバランスが大事だということです。
ロミンガーの法則について、よくお話する例えがあります。
私達は空気を吸って酸素を取り込んでいますが、空気中における酸素の割合は21%にすぎません。
空気の成分のほとんどは窒素です。しかし、酸素がなければ私たちは死んでしまいます。
さらに、二酸化炭素は空気中に1〜2%程度といわれています。全体からみるとごく僅かな量といえども、二酸化酸素が空気中になければ、植物は光合成ができません。
植物が光合成できなければ、私達は酸素を得られないため、生きてはいられないでしょう。
要するに、全体の比率が少ないものは必要がないわけではなく、それぞれのバランスの上で世界は成り立っているということなのです。
そのため、ロミンガーの法則においても、研修は比率が少ないから必要がないというのではありません。
その数%という一つの要素も意識して、リーダーシップ開発や人材育成をしていくことが大切です。
研修をどんな場にするか?
それではロミンガーの法則において、研修はどのような位置づけにすべきなのでしょうか。
研修はインプットの場であり、またアウトプットの場でもあります。
インプットの場としては、例として次のような研修が挙げられます。
- 理論や考え方
- 成功事例、失敗事例
- フレームワーク
これらは、よくある研修のイメージなのではないでしょうか。
例えば、経営戦略やマーケティングと一口に言っても、その理論やフレームワークは様々にあり、それぞれの成功事例や失敗事例があります。
こういったものを、研修や書籍で学んでいくのです。
一方、アウトプットの場としては次のような例が挙げられます。
- リーダー同士の対話や意見交換
- 自身のリーダーシップ行動の振り返り
- 具体的な行動計画の策定
最近はリーダー同士が集まる機会はとても貴重なので、意見交換を中心にした研修にしてほしいという希望をカイラボでも多く頂きます。
また、自身のリーダーシップ行動を振り返るという、いわゆる内省をしていく研修もあります。
内省をするには時間と場所を改めて設けなければ、個人で行うのは難しいものです。そのため、研修で内省の場を作るというケースです。
その他、具体的な行動計画を作るのを目的として、ワークショップ形式で行う研修もあります。
目的や状況によって必要なことは違う
研修を行うにあたって大事なのは、インプットとアウトプット、どちらを重視するのかではありません。研修の目的や受講者の状況によって、行うべきことは変化します。
例えば、初めて管理職に上がってリーダーシップを発揮するという場面であれば、ある程度理論や考え方、成功事例や失敗事例を知っておくことで、事前に失敗を避けることができるでしょう。
ただし、とにかくフレームワークを行ってその通りに実行すればそれで上手くいくかといえば、現実はそうではありません。
悩んだときに、同じリーダー同士で集まって議論する場を作ることも重要です。
理論を学び、実践してきた中で、改めて本当にどういう箇所が良かったのか、これから改善すべき点はどこかというのを内省して次に活かす場を作ること。そのための内省の時間をたっぷりととることを目的とした研修を行うのも、必要になる時があるでしょう。
ただしこれは、まだリーダーになって日が浅く、内省することが少ない場合では、この研修はあまり効果が大きくないかもしれません。
このように、受講者の目的や状況によって必要なことが変化していきます。研修を行うタイミングが少し変わるだけで、その効果が激変するというケースもあります。
今の受講者の状況がインプット重視なのかアウトプット重視なのか、この判断を誤ると、研修の効果は薄くなります。
研修の効果がないと、かけた時間とお金が無駄になってしまいます。その上、研修の良くなかった印象というのは強く残ります。
こういった事態を防ぐため、そのための対策が重要になります。
状況に応じて、今受講者にはどういう研修が求められるのかを判断していく必要があるのです。
実務・薫陶・研修の関係性
さらに実務と薫陶・研修の関係性において、ロミンガーの法則では実務が7割、薫陶が2割、研修が1割ということから、実務が最も重要なことは間違いありません。
実務からしか学べないことは、非常に多くあります。
例えば、動画の撮影で初めてカメラに向かって話をするとします。
カメラに向かって喋る時のポイントを解説したネット記事やYou Tube動画は、巷にたくさんあるでしょう。これらを閲覧して勉強、つまりインプットします。これは、上でいう研修や読書にあたる部分です。
さらに、実際にそれを実践しているユーチューバーや講師にアドバイスや薫陶を受けます。このカメラの先に何人もの人がいると想像することや、緊張した時のやり方などのポイントを聞いておくのです。
しかしそれで、実務経験がない人がいきなりカメラの前に立って話せるかといえば、多くの場合は難しいでしょう。
やはり実際に、場を経験しなければわからないことがたくさんあります。
ただし、だから実務が優れていて他のものは無駄なのだ、ということではありません。
何もわからない状態ですぐカメラの前に立って話すのと、ポイントを知った上で、かつ先輩たちからのアドバイスも受けてから立ったのでは、最初にスタートできるレベルが違います。
そこで失敗したとしても、その時に実務と薫陶を受けた内容、本などでインプットした内容などがうまくリンクして相互に作用しながら、学びが深まっていくのです。
とにかく実務が大事だということではなく、研修や薫陶も含めた割合をしっかり考える必要があります。仮に今実務しかないのであれば、薫陶や研修についても少し割合を増やすべきでしょう。
逆に、実務を少なくして研修ばかりが肥大化するケースもあります。これは、新入社員研修などでよくありがちなパターンです。
とにかく研修で完璧に学んで、実務では絶対失敗がないように、というのは難しいことです。やはり、実務・薫陶・研修のバランスをうまく取っていかなければなりません。
まとめ
読書・研修は、リーダーシップ開発の1割を担うといわれています。これを少ないと見る人もいますが、妥当な割合なのではないでしょうか。
最も学びが大きいのは、業務上の経験です。そのため、実務で何かを得た時に、読書や研修で得た知識や、先輩たちからの薫陶やデータ、アドバイスといったインプットとそれをうまくリンクできるかどうかが非常に大事になります。
ロミンガーの法則において、実務と薫陶、研修にはそれぞれに優劣をつけるのではなく、バランスを取って行うのが重要だということを覚えておいてください。