新入社員が辞めるというニュースをTVやインターネット上で見ることが多いと感じる方がいると思います。私たちカイラボは2012年から新卒入社後3年以内に辞めた方々へのインタビューを続けてきました。その中で見えてきた新入社員が辞める背景と、企業が対策を考えるときに抑えておきたい基本的なポイントをご説明します。
本記事の要約
最近の新入社員だから辞めるわけではない
新入社員が辞める背景をお伝えするために、前提として共有したい非常に大切なことがあります。
それは、「最近の新入社員だから辞めるわけではない」ということです。
最新のデータでは、大卒新卒者の3年以内離職率は「31.8%」となっていますが、この数字は過去20年で大きく変化はありません。
上記の図からもわかるように、大卒新卒者の早期離職率は厚生労働省がデータを発表するようになってからバブル崩壊前後を除いて大きな変化はなく、おおよそ30%以上の水準で推移しています。また、データ上では現在よりも2000年代前半の方が早期離職率が高かったことも見てとれます。
このことからも以下の2つのことはお分かりいただけると思います。
・30年前から新卒が3年以内3割辞めている
・最近の人だから早くやめるわけではない
この前提を共有したうえで、新入社員が辞める理由を考えていきます。
ゆとり教育や大量エントリーは新入社員が辞める理由とは関係ない
早期離職する新入社員が増加している背景として
・ゆとり教育を受けてきたせいだ
・ナビサイトなどで大量エントリーできるようになったからだ
などを挙げる方がいます。
しかし、厚生労働省が発表しているデータを見る限り、インターネット上のナビサイトで大量エントリーが開始された時期から早期離職率が上がっているわけではありません。また。ゆとり教育を受けた世代が新卒になったときにもデータ上の大きな変化はありません。
つまり、統計から判断する限り「ゆとり教育」や「大量エントリー」が早期離職率を高めた原因であるとは言えません。
では、ここ30年早期離職率に大きな変化はないのにも関わらず。なぜ最近、新卒社員の早期離職に関する話題が多いのでしょうか?
SNSで具体的な事例が多く共有されるようになった(おそらく捏造もある)
ここ数年新卒社員の早期離職に関する話題が多くなっていると感じます。その大きな要因としては「SNSが発達したことで具体的な事例が多く共有されるようになった」ということが大きいと考えています。
例えば、
・「3日で辞めた同期がいました」
・「新入社員がGW明けから来なくなりました」
・「新卒で入った会社、三ヶ月で辞めました」
というような内容は、twitterやfacebookなどのSNSで見かけることが多くあります。中には少しフィクションが入っている部分もあるかもしれませんが、このような具体的な話がSNSの発達によって多くの人に簡単に共有されるようになりました。
先ほどお伝えした通り、統計データ上では早期離職率に過去とのは大きな差はありません。
しかし、SNSで簡単に多くの人に共有されているという現状があるので、「最近の新入社員はすぐに辞める」思っている方も当然多くなっていると私たちは考えます。
SNS上のインフルエンサーは早期離職を推奨する人も多い
近年、主にSNS上で影響力をもつ、いわゆる「インフルエンサー」と呼ばれる方々が増えてきました。
インフルエンサーにはフリーランスや企業の社長、タレントなど、一般的なサラリーマンではない方も多くいます。
そうした方々の中には、
「石の上にも3年なんて無駄。早く辞めるべき」
「嫌なことは我慢しなくていい。すぐ転職した方が賢明」
といった、早期離職を促したり推奨したりする発言が多い方もいます。
最近の新卒社員の早期離職に関する話題が多い背景には、こうしたインフルエンサーによる影響も大きいと私たちは考えます。
というのも、インフルエンサーの影響でSNS上では
「(インフルエンサーの)〇〇さんの言う通り、私会社辞めて独立します」
のような投稿の露出度は増えますし、こうした発信をみて”入社してすぐに辞める人って多いんだな”と考える若者も増えるでしょう。
また、これは人事担当者やOJT担当者の方も同様で、こうしたSNSの上での発信を見て”やっぱり、今の若い人ってすぐに辞めるんだな”と考える方もいるでしょう。こうして「早期離職は、最近増えている」というイメージはどんどん大きくなっていってしまうのです。
ここまでが、最近の新入社員が辞めると思ってしまう背景です。
新入社員が辞める理由は「この会社にいる自分の未来が見えないから」
では、実際に新入社員はなぜ辞めるのでしょうか?
これまでの多くのアンケート調査などが行われて、その理由として「給与」「人間関係」「仕事のやりがい」など、様々なことが言われています。
カイラボでは、これまでの独自の調査結果をもとに、新入社員が3年以内に辞める理由を「存在承認」「貢献実感」「成長予感」の3つと言っています。
新入社員が辞める3つの理由についてはこちらの記事「新入社員が早期離職する3つの理由と5つの対策」をご覧ください。
先ほど、最近の新入社員が多く辞めるようになっていると感じる理由の一つとしてSNSの普及があるとお伝えしました。上記の3つの理由の中でも、SNSに感度の高い方が辞める理由として最も多いのは「成長予感」の不足です。
成長予感とは、簡単に言えば、今の会社で仕事を続けることでなりたい自分になれるかどうかです。人がうらやむような大企業を新入社員で辞めたある方は「この会社に勤めていても自分の未来が見えない」と言っていました。
人によって辞める理由は様々ですが、ざっくりと「存在承認」「貢献実感」「成長予感」の3つのどれなのかを考えてみると、対策も考えやすくなります。
新入社員が辞めない状態を実現するには思い込みを捨てた対策立案が大切
ここからは新入社員が辞めることへの対策について解説していきます。
対策を考えるにあたって大切なことが2つあります。
・思い込みを捨てること
・実態を正しく把握すること
この2つです。
若者に対する「思い込み」を捨てる
まず一つ目の「思い込みを捨てる」という点についてですが、先ほど挙げた
・最近の若者はすぐに会社をやめてしまう
・ゆとり教育が悪い
という「思い込み」を例に挙げて考えてみましょう。
なぜ、若い人に対するこうした思い込みがよくないかというと
「すぐに辞めてしまうのは、会社が悪いのではなく、最近の若い人に原因がある。」
という方向に話が進んでいってしまい、本当の原因ではないところに意識が向いてしまうからです。繰り返しになりますが”今の若い人だから、すぐ辞める”というのがデータ上、事実ではありません。
”最近の若者は〜”という「若者論」に走るのはではなく、違った側面から早期離職を考えることが大切です。
実態を正しく把握する
続いて、二つ目の「実態を正しく把握する」についてです。
例えば、こんな状況を想像してみてください。
新入社員が上司であるあなたに向かって
「他にやりたいことが見つかったので」
と言ってきました。この新入社員が辞めた理由は何でしょうか?
他にやりたいことが本当の退職理由なのかどうかきちんと把握する必要があります。なぜなら、早期離職の理由は、パワハラなどの人間関係かもしれませんし、社内の体制の不備に嫌気がさしたのかもしれないからです。でも、そんなことをバカ正直に言ったところでメリットがないと思えば、引き留めにくそうな適当な理由をつけて辞めてしまおうと思うのが人間です。
先輩上司には本音は言わずに当たり障りのないこと理由を伝えるだけという話は早期離職者へのインタビューを通じてよく耳にします。
日常からのコミュニケーションと信頼関係が何より大切
では、きちんと実態を把握するにはどうしたらいいのでしょうか?
具体的な対策としては以下の2つがあります。
・普段からコミュニケーションをきちんと取る
・信頼関係をきずく
むしろ、この2つができていないのに小手先のテクニックで「辞めたいです」と言われてからなんとかしようとしても、うまくいきません。
私たちがインタビューをしていても、
「辞めると言ったら急に人事担当の人がでてきたけど、普段からコミュニケーションをとっているわけでもないから、話しが通じない感じがした。」という話しはよく聞きます。
常日頃から若手社員や新入社員とコミュニケーションをとっていないと、人間関係が構築できておらず相手も本音を話す気にはなれないでしょう。
このようなことにならないためにも、OJT担当者や人事担当の方はコミュニケーションを意識的に図っていくことで信頼関係を築いていくことが、まずは重要であると私たちカイラボは考えます。